出夢は誰よりも強かった。何故ならば出夢には弱さがないからだ。それゆえにのちに暴力だけなら人類最強さえも凌駕すると人類最悪に言われている。とにかく出夢は強かった。
「ひっとしっきくぅうん、僕と遊ぼうぜぇえ！」
「……うわ」
ちょうど兄である双識から逃げていた人識は、神出鬼没という言葉が似合うほど毎度毎度突然現れる出夢に対して、砂を食べてしまったかのような顔と声を上げた。出夢はそんな人識など気にしていないかのようにげらげらと笑い、にったぁあと口元をとびきり歪ませる。人識はげんなりと出夢のそんな様子を見ながら、すでに逃げ出す準備をはじめた。出夢はそれを見逃さない。
「やっだなぁ、人識。そんな逃げ腰で僕に勝てると思ってんのぉ？」
「ばっか、俺は今最高に疲れてんだよ。お前に構ってる暇もねぇんだよ」
「ぎゃははは！ざっんねーん、僕は今最高にテンションが高いからね！だからそんなこと言われたら、嫌でも人識にベロちゅーしたくなっちゃった！」
「なんて奴だ！」
人識はそう叫ぶが早く、出夢から逃げる。そして出夢はそんな人識を見ながら、またにったぁあと口元を歪ませ、舌なめずりをした。誰よりも強い出夢は、自分より弱い人識を追い掛ける。
人間から鬼が逃げるごっこ