そんなにも俺が嫌いなら無視していてくださいよ阿久根先輩。と人吉くんは舌を回してすぐに仕事に没頭しはじめた。そして、いつものように人吉くんと雑談をしていたはずの俺はというと、まず人吉くんの言葉の意味を理解するのに数秒かかり、理解してから正気に戻るまでもを数秒かけていた。隣ではやはり人吉くんが変わらずにそこで仕事をしていた。
「人吉くん」
 思わず声が震える。ちなみに俺は人吉くんみたくに仕事に没頭出来ないので、ペンは机に落とした。人吉くんは俺に呼ばれたのを嫌がるみたくにしながら、なんですかと返事をしてくれた。
「え、あの、話に、ついていけないんだけど……」
 人吉くんからの、なんだこいつ、みたいな目線がすごく痛い。
「だからですね、阿久根先輩」
「うん」
「そんなにも俺が嫌いなら無視していてくださいよって、言ったんですよ?」
「いやだから、それの意味がわからない……」
 少しどころか結構機嫌の悪い人吉くんは苦手だ。なんていうか、反抗期真っ只中だった自分を見ているようで、恥ずかしくなる。俺も年とったなぁ。
「阿久根先輩は俺が嫌いなんでしょう?」
「………ん?」
「だから、阿久根先輩は俺が嫌い……」
「いやいやいやいや!人吉くん?昔ならそうだったかもしれないけど、今は違うからね!」
 全力で否定をする。確かに昔は人吉くんに対してあれな態度を取ったりだとか嫌いだと言ったりはしたが、ていうかさっきの雑談のどこにそんな要素があったんだ?
 ぐるぐる回る頭で、とりあえず人吉くんに力強く否定しておく。すると、だんだんと人吉くんも理解したのか、すいませんと小さく謝ってきた。
「すいません阿久根先輩。俺、てっきりまだ阿久根先輩は俺が嫌いなんだと思っていました」
「誤解……解けた?」
「はい」
 ならよかった。深くは聞くまい。とりあえず一件落着し、肩の力を抜くために息を吐く。人吉くんはもう一度すいませんでしたと謝ってから、また仕事をはじめた。ちょっとくらい余韻に浸ってほしいと思ったのは、わがままだろうか?



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