別に嫌だなんて言った覚えはないはずだ。だというのに、阿久根先輩は申し訳なさそうに笑って、ごめんよと俺の頭を撫でた。俺はそれの意味がわからなくて、少し反省する。もしかしたら無意識に俺は阿久根先輩とそういったことをするのを、嫌がっていたのかもしれない、と。
 阿久根先輩は優しい人だ。元破壊臣とは思えないほどに。今の阿久根先輩は優しい人だ。この頭を撫でる手からして優しいそれだ。その手があんまりにも優しいから、俺はついつい目を閉じてしまう。だというのに、阿久根先輩はあっさり手をひっこめしまう。
「やっぱり嫌だったよね」
 どうして、その言葉は出なかった。ただあんまりにも申し訳なさそうに阿久根先輩が笑うもんだから、俺は何にも言えなかった。阿久根先輩は優しい。阿久根先輩は優しい。優しいからこそ、彼は勘違いをしすぎている。俺は口を重く開いた。
「キス、しましょうよ」
 間が明き、阿久根先輩が、うっすらと頬を紅潮させて、いいのかいと恐る恐るといったふうに訊ねられる。いいも悪いも、俺はあんたとそれがしたいんですよ。また、阿久根先輩が優しく笑った。



馬鹿かあんた
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