阿久根先輩が俺に微笑むたびになぜか心臓が泣きそうになった。阿久根先輩が心配そうに俺の名前を呼ぶたびになぜか心臓が泣きそうになった。阿久根先輩と隣を普通に歩けるようになってから、俺はようやく今の阿久根先輩に慣れていないのだということを知った。それでも阿久根先輩は俺に微笑む。
 阿久根先輩をすべて否定したいわけじゃない。そりゃあ昔はすげぇお互いを嫌い合ってはいたが、今はお互い普通なはずだ。俺はあんま素直にはなれないが、阿久根先輩は和やかに会話してくれる。でも、やっぱり俺はそんな阿久根先輩に慣れなくて、思わずあれは本当に阿久根先輩なのだろうかと首を傾けるくらいだ。
 阿久根先輩が俺をさりげなく助ける場面が増えた。きっと昔の阿久根先輩なら「やっぱり虫だな」って言うのだろうが、今の阿久根先輩は「大丈夫?」とか、そんな労いの言葉を寄越す。だからなんだか心臓が泣きそうになるような、痛いような、とにかくわからないようになる。
 変なの。俺はめだかちゃんでなければ、喜界島とか女の子じゃねぇのに。これなら、昔みたいにきつくしてくれたほうが、まだマシなのに。それでも阿久根先輩はやっぱり俺に向かって微笑むし和やかに会話をしてくる。



否定ではない否定
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