俺が知る不知火さんという人は気持ち悪いくらい人吉くんと仲がいい親友だ。あとは理事長の孫だとか、大食いとか、意外と謎が多いだとか、そんなところ。あまりみんなと変わらないと思う。まぁめだかさんはあまり不知火さんを快く思っていない節があるが(なんて珍しい)
 不知火さんは俺の髪をベタベタと触っていた。しかもその手は先ほどまでケーキを掴んでいたのだから、俺の髪に生クリームだとかが付着していく。甘ったるい匂いがして、それだけで胸焼けしてしまいそうだ。それでも不知火さんは俺の髪をベタベタと触る。
「不知火さん」
「なぁんですか?」
「髪の毛触るの、止めてくれないかな?」
「えー、いいじゃないですか」
 語尾に星マークが付きそうな返しと笑顔に頭が痛くなる。何が悲しくて俺は髪の毛に生クリームだとかを付着させられているのだろうか。あと早く生徒会に行きたいんだけどなぁ。
「不知火さん、こういうのは人吉くんにしたらどうかな?」
「あー、人吉は髪の毛短いですからねー」
「……そう」
 失敗した。てっきり人吉くんの名前を出しておけば逃げられると思っていたのに。不知火さんは可愛らしく笑いながら、まだ髪をベタベタと触ってくる。飽きないな。もはや呆れを通り越して、感心してしまう。誉めることではないんだけれど。
「阿久根先輩の髪の毛美味しそうですよね」
 突然の不知火さんからの発言に、ひやりと冷や汗が背中に流れた。え、なんかすごく怖いぞ。
「じょ、うだんだよね?」
「あひゃひゃ、もちろんじゃないですか!」
 する、とようやく不知火さんが髪から手を離した。しかしこれは当分甘ったるい匂いは消えないな、とため息を吐きながら、立ち上がって不知火さんを見下ろした。
「美味しそうですよ、阿久根先輩」
 そう言った不知火さんは、いつもとおり可愛らしく笑っていた。



あまい
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