いつものように生徒会室に入れば、阿久根先輩が何やら真剣な顔をして姿見を凝視していた。その真剣さは俺が生徒会室に入ったことも気付かないほどらしく、俺はめだかちゃんと喜界島がいないのを見渡しながら一応挨拶をするべきかと、鞄を机に置く。
「こんにちは阿久根先輩。早いっすね」
 気さくに挨拶をすれば、阿久根先輩は本当にたった今、俺の存在に気付いたかのように肩を揺らした。姿見に映っている阿久根先輩と目が合う。「ひ、とよしくん」まるでホラーゲームみたいな声で名前を呼ばれるのはいただけない。どうしたのだろうかと、曲がりなりにも先輩であり生徒会メンバーである阿久根先輩の話を聞くことにする。
「どうしたんすか、阿久根先輩?おかしいっすよ、話なら聞きますけど」
「……相談に、乗ってくれるかい?」
 珍しい。あの阿久根先輩が。いったい何が阿久根先輩をここまで落ち込ませるのだろうか。俺はデビルやばいぞときちんと話を聞く体勢を整える。
「実はね、人吉くん」
「はい」
「……制服を元に戻すかをね、迷っているんだよ……」
「……………は?」
 たっぷり間をあけて、阿久根先輩の言った言葉を理解しようとする。阿久根先輩はそんな俺に気まずそうにしながら「だって、人吉くんはジャージを止めたしめだかさんも露出がなくなったし、喜界島さんは見た目ならずっと真面目じゃないか……。ていうか本当にめだかさんが露出を止めたから俺も意味が無いというか……」と、ぶつぶつ阿久根先輩に珍しく暗い言い方だった。そういえばお母さんは阿久根先輩の露出はオッケーだと言っていたんだっけか。ていうか、そんなことで悩んでいたのか。
「そんなことじゃないよ!これは大問題だよ」
「えー……」
「ふん、人吉くんにはわからないだろうね」
 あ、阿久根先輩が初期キャラに戻りつつある。そこまでのことなのか?よくわからん。
「でも俺、阿久根先輩のその制服スタイル、サタンかっけぇって思ってますがね」
 そう言った瞬間、阿久根先輩は今までの暗いような雰囲気というか表情というかを、なんか微妙なものに変わった。なんだ?
「ひ、人吉くん」
「はい」
「そ、そんなお世辞とかはいらない、よ?」
「いや、お世辞じゃねぇっすよ」
「……そう」
 ここにきて、初めて阿久根先輩が力なくだったが、笑った。もしかしたらそれは苦笑というものだったかもしれないが、まあとりあえず阿久根先輩が笑えるまでは回復したらしいから、いっかなぁって。



どーでもいいですよ
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