家に帰ると血塗れな女の死体が床に転がっていた。しかも裸である。顔はなぜかところどころ穴が空いており、知り合いかどうかの判別も出来ない。乳房などがなければ性別もわからなかったかもしれない。そもそも、もしかしたら、知り合いですら無いのかもしれない。
 蓮実聖司はふむ、と考える仕草を取りながら死体を見下ろした。その表情には恐れなどはなく、ただあるとすればそれは、子供が玩具の後片付けをしない姿を見るようなものだった。まぁ、まさしく子供がやったようなものなのだが。
 目玉もくり貫かれた死体が蓮実を見上げている。まるで助けを求めているかのようだった。だが、蓮実には死体と交わる趣味は毛頭無いので無視をする。とりあえず邪魔だ。片付けなくては。
 この惨劇を作り上げた本人の所在がわからないままなので、蓮実は鞄などを仕舞うために死体を跨ぎ、部屋へ向かった。鞄を仕舞うついでに服を脱ぎ、裸のまま死体の元へ向かう。
 すると、そこに男の姿があった。同居人のクレイ・チェンバースである。蓮実はなんだ居たのかとため息を吐き、声をかける。クレイは振り返ると、蓮実の服を纏わぬ姿に口を開ける。
「セイジ!君、また服を着てないじゃないか!」
「いや、死体を片付けようと思ったから脱いだだけだ……ところでクレイ、さっきまでどこに居たんだ?」
「風呂場だよ」
 あっけからんと言いのけるクレイは確かに髪が濡れていた。よくよく見れば、肌も潤っているように見える。気付かなかったのは恐らく、クレイが最近湯を張ったバスタブに浸かるのにハマっていたからだろう。蓮実は風呂場を覗いておけば良かったと思った。省けるのならば手間は省きたい。
 しかし今さら服を着るのも面倒なので、蓮実はそのままクレイと死体に近寄る。クレイはそんな蓮実に嬉しそうな笑顔を見せた。満点を採った子供のような顔である。
「今回はまた派手にしたな。いったい何をしたんだ?」
「初心に返って、セックスをしながら刺したりとかしてみたんだ。おかげで血塗れになったんだけどね!」
 ニカッ、と歯を見せて笑うクレイの歯には薄い赤色が付着していた。口の中を洗わなかったらしい。蓮実は指摘してやろうか迷い、止めた。元からカニバリズムの気があるような人間だし、大丈夫だろう。もしかしたら、女の肉を食べたのかもしれない。蓮実には共感しがたい趣味ではあるが。

 そこから蓮実とクレイは二人で死体の片付けをした。クレイが意外と手際が良いのは知っていたが、いざというときに役に立つかもしれないので手伝った。クレイは蓮実はやはり良い友達だと歓喜したことには、曖昧に笑って濁しておいた。
 血を拭き、蓮実は数キロ離れた庭に死体を埋めてきたクレイが戻った際に、ふと訊ねる。
「そういえばあの女、誰なんだ?」
 またクレイが適当に選んだ女だろうと予測はしたが、一応訊ねてみる。しかし蓮実の予測はあっさりと裏切られ、クレイは淡々と女の名前を告げた。それは蓮実が知っている名前だった。なんせ、ついこの間夜を共に過ごした女なのだから。
 クレイは笑うわけでも怒るわけでもなく、ただ不思議そうに首を傾げた。
「なぜかわからないんだけどね、彼女がセイジとセックスしたってわかったから、俺もしようって思ったんだ。それで、ハイテンションになって、で、殺しちゃったよ」
「……そうか」
 蓮実は布や身体に付着した血を見る。この間抱いたあの身体はいい代物だった。もう抱けないのかと思うと、少しだけ名残惜しく感じる。だが、ただそれだけだった。怒りも悲しみもない。これまでと変わらない。むしろ段々と、早くに抱いておいて良かったとさえ思えてくる。蓮実はクレイに子供を誉める親のように笑いかける。今はまだ、彼には価値があるからだ。
「シャワーを浴びてくるよ」
 たっぷりと血を吸った布を投げつけ、蓮実はそのまま風呂場へ向かった。



子供のような
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -