ただの好奇心だったのだ。一番不要であるはずものではあるのだが、彼はどうしても対象に対してだけは払拭することが出来なかった。後々から思えばこの時点で対象の罠に自らかかっているようなものなのだが。
 なんせ、対象は蓮実聖司なのだから。

 蓮実が拘置所に連れてこられた。彼は噂のキチガイを目の当たりにし、本当にこんな奴があの事件をと最初は疑った。何故ならば蓮実は拘置所に連れてこられたというのに、とても落ち着いているのだ。目玉が淀んではいないので、すべてを諦めているわけではなかった。強いて言うならば、然るべき時に自分は解放されるだろうと知っているような雰囲気だ。
 なぜこんな状況に置かれているにも関わらずそんな態度を取れるのだろう。まず間違いなく死刑は決まるだろうに。けれど、蓮実を見れば見るほど、そういったものが感じられない。そう、それこそが蓮実聖司の異常さだ。と、彼は思った。同時に、強く蓮実に興味を持った。

 蓮実は特に何もしてこなかった。至って静かに拘置所での生活を送っている。その姿は、拘置所が蓮実の自宅であるかのように錯覚させるほどに自然なものだった。今までにも静かに過ごす者や自宅のように過ごす者はいたが、蓮実はその比ではない。うっかりコーヒーのいい匂いが蓮実から漂ってきそうなど、拘置所であっていいはずがない。
 彼は蓮実の監視を担当することになり、飽きることなく余すことなく蓮実を監視し、世話をした。こんなにも楽しい仕事は生まれて初めてである。
「なぁ、蓮実聖司。お前って今まで何人殺したんだ」
 本を読んでいた蓮実が顔を上げた。ちなみに本はお経がびっしりと書かれた本で、蓮実はそれを面白いですねと笑っていた。どうやら自称神を信じる者からすると、仏はあまり心に響かないらしい。だいたいの者ならば、ずっとお経だけを読んでいると心が洗われたような顔をするというのに。
「先に言うが、これは取り調べでもない。ただ、俺が聞きたいだけだ」
「はぁ……しかし私は、無差別に人を殺すなんてことはしません。4組の生徒を殺したのは、ただ神からのお告げで」
 悠然とした態度で、すらすらと吐かれた言葉に彼は笑った。蓮実の白々しい演技に、ではなく、これを信じようとする者が増えてきている世間の動きに、だ。
 蓮実は笑われたことに怒ることもなく、ただ人が良さそうに笑いかけ、貴方にも悪魔が取り憑かれているかもしれませんねと言った。



中途半端
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