バケツ一杯に入った赤い液体を、クレイは何の躊躇いもなく頭から被り、全身を濡らした。液体と共に小指などが床に落ち、そして噎せ返るほどの血の匂いが部屋全体に広がる。クレイは恍惚とした表情のまま、口の中に入ってくる血を飲み込んだ。その味はワインなどよりも、クレイを酔わせた。
 そんなクレイを、蓮実は腕を組みながら後ろから観察していた。ちなみに蓮実はクレイのような奇行はせず、ただクレイが被った血が少しだけ服に飛び散ったくらいの被害しか受けていない。いい迷惑だと蓮実は思った。それと同時に、改めてクレイと自分は違う人種であることを思い知る。それがどちらかにとって幸せなことなのかはわからない。
「楽しそうだな」
 後ろから声を投げられ、クレイは振り向いた。振り向いたクレイの顔は予想通りに笑顔だ。この上なく楽しげな友人の笑顔に、蓮実は微笑み返した。
 クレイは抱擁をするように両手を広げ、叫ぶ。
「楽しいさ!楽しくて、嬉しくて、気持ちよくて、そしてとても幸せだ!僕は、殺人をするために産まれてきたんだ!血を、肉を、快楽を!得るために僕は、僕と聖司は産まれ、そして出逢ったんだよ!幸せだね!幸福だね!最高な気分だ!聖司!聖司!」
 高揚しているせいか、後半からクレイが何を言いたいのか蓮実にはさっぱりわからなかった。だが、とりあえずクレイがとても楽しく、嬉しそうに笑い、自分を呼ぶので、蓮実は微笑んだままクレイの言葉に頷いて見せた。クレイの高い笑い声が上がる。その姿はまさしく酔っぱらいそのものである。
「聖司!ああ、聖司!僕は幸せだ!殺人が出来て、君がいて、僕は幸せだ!なぁ、聖司、君もそうだろ?」
「そうだな」
 本当はそんなことは微塵も思っていないが、蓮実は頷いた。そうすればクレイが喜ぶとわかっていたからだ。実際、クレイはまだテンションが上がるのかと疑問に思うほどに蓮実の名前を叫び、そしてそのまま、蓮実に抱き着いた。唐突な抱擁に、蓮実はたじろぐ。
「聖司!聖司!!聖司!!!」
 うるさい。耳元で叫ばれ、鼓膜が揺れる。それに、クレイが抱き着いたせいで、すっかり蓮実も血塗れになってしまった。じわりとシャツが赤く染まり、濃い血の匂いが鼻腔を侵す。よくもまぁ、こんなものでテンションが上がるものだ。蓮実はこの場にブラックジャックかナイフがあればいいのにと思いながら、クレイからの熱い抱擁を甘受することにした。

 ちなみに、この一週間後にクレイが死ぬことはまだ誰も知らない。



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