肉付きのよい女だった。
 痩せすぎず、さりとて太りすぎず、程よくふくらとした身体だった。性格も身体に似合ったおっとりとした、優しい性格だった。笑顔は花のように可愛らしい。
 そして何よりも魅力的だったのは、声だった。鈴のように綺麗で、けれどあたたかみや柔らかさがあり、よく子供を誉める母親のような声をしていた。その声が快楽に溺れる様子は、特に蓮実を魅了した。
 優しさを人間の姿にしたような女だった。蓮実は、これは中々いい女が手に入ったと喜びを露にしたものだ。女はそんな、自分を素敵だと言う蓮実に、はにかんだ。

「子供が出来たの」
 いつものような声だった。避妊をしなかった蓮実を咎めるような雰囲気は、一切感じられなかった。その代わりに、その時の笑みには普段よりふんだんに愛しさを盛り込んだものだった。蓮実は、さして膨らんでいない腹を一瞥した。
 最近何かと自分との用事を断っていたのはこのためだったのか。内心舌を打つ。彼女を甘く見ていた自分と、妊娠してしまった彼女に対して。
 何ヵ月だ、と蓮実は心中を悟られないように訊ねた。すると彼女は、3ヶ月だと告げた。3ヶ月という数字がなくとも、自分に出会うまで性経験がなかった彼女を孕ませたのは自分しかいないことと、彼女がそんな嘘を言うような人間ではないとわかっていたが、予想以上にその事実が蓮実に重く乗っかってくる。
 きっと彼女は堕ろすなどということは微塵も考えていないのだろう。それに、ここで堕ろすように説得などすれば、面倒なことになりかねない。それは避けるべき事態だ。けれど、もしこのまま産ませてしまったら。
 女が不思議そうにどうしたの? と黙ってしまった蓮実の顔を覗く。こんな時でも美しい顔に、蓮実は戸惑ったように笑ってみせた。
「いや、あまりにも突然すぎて驚いたんだ……。そうか、俺が父親かぁ」
「そうよ、貴方は父親になるのよ。きっと、貴方ならいい父親になれるわ」
「君も、いい母親になれるよ」
 蓮実の言葉に満足したのか、女は小さな生命体が入っている腹を優しく撫でた。聖母のようだと蓮実は絵画を鑑賞しに来たようにその様子を眺めた。
 もちろん、頭の中では女の自宅の構図を思い出しながら。



笑えた話ではない
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