▼世界の端で 世界の端で ずっと二人で生きてきた。 この戦いの中、二人で。 手を繋いで、食糧を分け合って。 他の誰でもない、●●と。 親は居ない。 どんな顔だったか、どんな聲で俺を呼んでいたか、一切思い出せない。 生きているか死んでいるか。 そんなこともう今となってはどうだって良い。 繋がってもいない血は、たいした問題ではない。 労働力をと集められた施設の中で出逢った。 家畜のような毎日。 逃げようと手を引いたのはオレ。 ソレに応えたのが●●。 足の動く限り遠くへと何日も何日も歩き、その日暮らしの根無し草として、定住することなく転々と移動した。 腹が減れば市場でパンを掠め、喉が乾けば湧水を探し。冬の厳しい寒さには凍えないようにときつく抱き締め合い、灼熱の陽射しにはごみ捨て場で見付けた帆布に包まって夜を待った。 『リヴァイ』 何年か前に辿り着いたのはこの、朝も昼も夜も関係のない、薄暗い地下街。 素性なんて誰も聞かない。気になんてしない。 オレ等以上にバレたらヤバい奴らだって、そこ等中に転がっている。 それが一人二人増えようが、ありがたい事に構わねェ様だ。 壊れかけの扉から聞こえた聲に振り向けば、雨漏りを避けて進む足が見えた。水溜りと割れた窓ガラスの破片が散らばる部屋を、覚束無い足取りで進む。どこかで見付けた男物のブーツを履かせて、無理やりきつく縛った紐で何とか歩けるようにしてやった。 「起きたのか、●●。飯、食うか……?今日もパンしかねぇがな」 くすねてきたパンを●●の方に放物線を描く様に放り投げる。確実に●●の手元に落ちる様に。 予測通りに着地したパンとオレを見ながら、食べ物は投げちゃダメなんだよと、眉間に皺を寄せた。 『ありがと。じゃあ半分こね』 「いや……オレは、」 『ダメ。はい、リヴァイの分』 「……チッ」 そう言って、渡したパンを千切って寄越す。 差し出されたパンを受け取りながら、反対の手で●●の頬に触れた。 猫の様に無意識に擦り寄ってくる●●の肌は、自分の手の温度より低く、ヒヤリとして心地いい。 『ふ、くすぐったい』 雨風に晒されて、当初の用途ではもう使う事が出来なくなったグランドピアノ。 なんでこんなモンがココにあるのかは分からねェ。この廃屋が何年か何十年か前にはグランドピアノを使う様なお貴族様か何かが住んでいたんだろう。 それが今ではごろつきの住処だ。 折れた前足のせいで傾いたソレに、凭れ掛かる様にして座る。そして●●の腕を引いて隣に座らせた。 こいつのお蔭で雨漏りの被害に合わなくて済む。 「悪いな、こんなモンばっかりで」 『ううん、十分』 細ぇ、腕。 陽に当たっていない所為で青白い肌が痛々しい。 ろくな食事はもう何年も口にしていない。どうにか手に入れられるのは、固くて味気ないパン一つが限界だ。それをいつも二つに分けて飢えを凌ぐ。物足りないと煩く騒ぐ腹にはもう慣れた。 二口程で腹に収まったパンの欠片。 呆れたことにコレで食いつないでいる。 『……でもリヴァイは男の子だから足りないね。やっぱりアタシも外に、』 「駄目だ」 薄暗い部屋の中でも嫌と言うほどわかる。 手入れをしていなくても指通りの良い黒髪。長い睫毛が縁取る大きな眼。栄養が足りていなくても、林檎の様に赤みのある肌。血が滲んだような唇。 ●●は女だ。 毎日外で見かける奴ら、聲を掛けてくる奴ら、一戦を交える奴ら。 あいつらに●●を見せてはいけない。 「それは、駄目だ」 手を差し出したのは、オレ。 「オレが●●を守る」 もしかしたらあのまま施設にいた方が、幾分ましな人間らしい生活が出来ていたのかもしれない。 何かから隠れて脅えるような生活はしなくても済んだのかもしれない。 ●●を連れ出してしまったことは、オレの責任であって、オレの罪。 『ありがとう、リヴァイ』 肩にかかる暖かな重みに、重なる様に頬を寄せた。 空なんて見えない。 見えなくて良い。 オレの全ては、ここに在るのだから。 End 20130804 リヴァイ兵長夢でした。 少し短めですが、人類最強になる前の、昔の話を。 とりあえずごろつき兵長ください。 ←一覧へ |