▼彼女彼等の日常茶飯事














「“久し振りだな、●●”」

『セルティ、久しぶり』





街角を曲がった辺りで珍しい人物の姿を捉え、バイクを停めた。


彼女は私が此処を通ることも、
バイクを停める事も解っていたかの様に
相変わらずの声色で私の名前を呼ぶ。

胸元まで綺麗に伸ばされた黒髪を靡かせ、
コートのポケットに突っ込んでいた手でソレを梳いた。




●●と知り合って数年の仲ではあるが、
滅多に此処、池袋に現れる事はなく、
どんな仕事をしているのかも、日々何をして過ごしているのかも知らない。


はっきりと解っているのはとある人物の血縁者と言う事位か。



「“珍しいな”」



PDAに素早く文字を打ち込み、彼女に向ければ、あぁ、と少し高い聲を発した。






『人探しよ、セルティ見掛けて無い?
新宿に居なく、て…』

「おーりーはーらぁ!!!」

『…煙草止めてよ、静雄』






バキバキと音がすると思えば、
標識を握り潰している平和島静雄。


池袋の西口でバーテンダーをしている彼は
かなりの確率で真っ黒のベストとパンツに、
白いシャツを着用している。



一吹きした秋風にくわえていた煙草がジジジとオレンジ色に燃えて、灰が散った。






「煩ぇよ、折原 ●●。
ノミ蟲と同じ顔で同じ服着て池袋に来んじゃねぇよ。」






機嫌が相当悪いのだろう。
片方の口角だけを高く上げ、響かせた低音の聲。

ブンブンと振り回される標識に、
道路端に置かれていた自転車が薙ぎ倒されていく。




『このコートはアタシが先に着たのよ!
臨也が真似をしただけでアタシはオリジナルだわ!』

「ごちゃごちゃ煩ぇ」




軽やかに身をこなし、振り回されているソレをかわしながら静雄に近付いていく。




そう、彼女の名前は折原 ●●。
折原 臨也の姉。
と言っても臨也と生まれた日は同じ。

二人は双子なのだ。





臨也より大きな目に添えられた長い睫毛を瞬かせて無邪気に笑う。





『相変わらずの短気ね』





不意をついて静雄の背中に自分のソレを合わせ、
静雄の口にくわえられていた煙草を掴み、
道路端の溝に投げ棄てた。


そのままその場にしゃがみ込んだ●●の頭上を
ぐるっと方向転換した標識が空を切る。





『やだやだ、静雄とこんな事してたら臨也みたい。』

「手前ぇ、」





トンとステップを踏む様に静雄から離れ、
近くのガードレールに飛び乗った。

よくそんな所に乗るな、と思うが
彼女もそして臨也も高い所が好きらしい。





地上から数十センチのそこにバランスを保ちながら片手で軽く黒髪を払う。





「…●●?」





はぁ、とつかれた溜め息に応えるように
音もなく隣に舞い降りる黒いコート。

●●と同じ黒髪を靡かせ、
●●と同じようにポケットに手を突っ込んでいるのは彼女の弟の臨也だ。





「なんで池袋に居んのさ、」

『臨也、探したのよ!』

「…!いーざーやぁ!!」




標識が二人の足元のガードレールに振り下ろされ、
金属同士の激しくぶつかり合う音が響く。




「●●、何の用」

『アタシの客取ったでしょ!』

「えー見逃してよ」





静雄の背後に逃げ込んだ臨也の襟ぐりを掴む●●の手元には数枚の書類。

ソレを突き付ける彼女から視線を逸らしながら、
アハハ、なんて業とらしく笑う臨也。


ソレが気に障ったらしく、ひくりと動く眉は不機嫌の印なのだろうか。
ポンポンと肩を叩いてくる弟に冷ややかな視線を送っている。




「無視すんなよ、おい!」




そんな二人に青筋を浮かべる静雄。

ガードレールと衝突した為、原型を留めていない標識を投げ捨てて、
赤いボディの自動販売機を軽々と持ち上げていた。






『静雄煩いよ』

「はぁ!?」

『煙草臭いし』




思わず上げた聲と共に静雄の手から自動販売機が離れ、
その衝撃でどこかが欠けたのか破片が足元に転がってきた。




器物破損極まりない静雄には慣れてはいるが
こう暴れまわられると騒音が酷く煩い。

静雄の前に折原姉弟揃うとこんなに厄介なものなのか。


ヘルメットの上部。
有る筈もない頭が痛くなった気がした。





「知ってた?セルティ。」




ニヤニヤと笑いながら戦線離脱した臨也が近付いてきて、
バイクに凭れながら傍観していた私に呟く。





「こう見えて二人が付き合っているから不思議だよね。」

「“はぁ!?”」






手にしていたPDAを思わず落としそうになった。


下手したら大怪我を負う程の暴れ様なのに。





「“まさか…”」





PDAに打ち込んだ文字を見た臨也が、
アレアレ、と二人を指差す。


再度二人に視線を送れば、
腕を組んでいる●●の前で冷や汗をかきながらシャツの袖付近に鼻を当てている。


先程までの尖った空気は消え去っていて。









「愛ってまだまだ謎だよね」








そう言った臨也はどこか嬉しそうだった。










(そんな池袋の一日)

end

20111113




複数出場させると難しい。
自分的には二、三人がちょうど良い。

シズちゃんカッコいい。

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