▼あいのことば













「愛だよ、愛」



両腕を左右に広げ、掌を天に向けながら愛を語るは折原臨也。

お馴染みのファー付きの黒いコートに身を包み、
黙っていれば美しい顔を向けながら
人類への愛情を熱弁する。


池袋を中心に行動している情報屋の彼が何故今此処(新宿)に居るのか。

その理由は解りきっていて実にくだらない。






コートの襟ぐりを引っ付かんで脱ぐように促せば、
大人しく腕を動かした。


コートの下に着ていた黒のカットソーから覗く腕は女性のソレよりも白く、
それでいて無駄のない筋肉が付いている。


静雄よりも低い身長に端正な顔立ちは一瞬女性と見間違えるくらいなのに、
こうやって隠された部分なしっかり男なのだ。


情報屋だけでなく変な趣味のせいで日々危険が付き纏う彼には
必要最低限なのかもしれない。





『ソレがどうして静雄と殺し合いになるわけよ。』




少し肩を気にかける動きをしたと思えば
赤く腫れ上がった皮膚が見え、
指先が当たるだけで顔を顰める臨也。





「しずちゃんは話が通じないから困るよ」

『臨也のせいでしょ』

「●●はしずちゃんの肩持つんだ」




しずちゃんとは平和島静雄の事。

臨也と同じく池袋の住人で、
昔から臨也とは折り合いが悪く、
犬猿の仲と言う言葉では済まされない間だ。

顔を合わせれば刃物を取り出す臨也と
街中の物を手当たり次第掴んで振り回す静雄。



ホントに質が悪い喧嘩を繰り広げる。




『と言うよりは臨也が理解出来ないね』




剥離紙を剥がしながら、臨也の肩に湿布を貼れば、
それ特有の冷たさの所為で臨也の肩が少し跳ねた。

剥がれない様にベタベタとテープまで貼ってやる。




「酷いなぁ。俺はこんなにも全てを愛してるんだから、
全ても俺を愛するべきだと思わない?」

『思わないね』





全てを愛しているとか、
実にくだらない。





「●●も俺を愛するべきだと思うんだ」

『遠回しな言い方は嫌』





テープを持った手が臨也の手に捕まる。
ソレを両手で包み込む臨也の掌はいつになく優しい。




「つまりは愛してる」




アタシと臨也の唇が弧を描く。




『最初からそう言えば良いじゃない』




池袋を中心に活動する臨也が新宿に足繁く通う理由は解りきっていて、
実にくだらない。




“愛”を囁きに来るのだ。




臨也の“愛”と言うものには一切興味も無いし、
臨也が吐き出す“愛”にも惑わされているつもりは微塵も無い。


“愛”を語り“愛”を欲しがるくせに
誰よりも“愛”から遠い生き物なのかもしれない彼。





それでも彼の手を振り払えないアタシは
臨也の“愛”が嬉しいんだ。



憎たらしく笑う臨也が嫌いにはなれない。





「●●、池袋に来てよ」

『…臨也が新宿に来れば良いのよ』

「ソレも良いね」




とりあえずシズちゃんに餞別渡してくる、
なんて鼻歌を奏でながら立ち去る背中。




自分中心に生きてきた臨也。

他人の意見を聞いた事は、
今まで一度も無い。




そんな彼があっさりと。



これが折原臨也が新宿に拠点を移した理由。

次の日からはアタシの隣で笑う臨也が
目撃されるのだ。





(つまりは愛してる)

end

20111103



臨也と静雄が好きです。

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