▼infatuation






●イワン
「infatuation」









いつもと変わらずスタジャンを着こんでブーツのソールをコツンと鳴らす。



皆の様にヒーロー向きの能力ではない自分に出来る事は少ない。

事件が起きてもポイントを稼ぐ事は中々出来ないが、
少しでも早く駆けつけられる様にと。

スカイハイの真似ではないけれど、
パトロールを始めたのは確か春風が心地良い季節だった。












『●●!』




街の中心部にある公園。

優しくなった陽射しが降り注ぎ、小鳥は囀ずる中、柔らかな風が頬を撫でる。






「こんにちは、イワン!」




木々が作り出す陰の中、
木製のブラウンのベンチに腰を掛けている女性は最近仲良くなった●●。




足が悪いらしく思う様に動く事が出来ない彼女は毎日此処で絵を描いている。

キャンバスに広がる色彩のパノラマ。

パステルを擦り付けて描く大空には純白の雲と青々とした木々。




定位置となった●●の隣に座り込み、
持参したトマトとキャベツが挟まったサンドイッチを差し出した。




『ここのパン屋さんのサンドイッチ大好き!』

「良かった!!」




交互に何か食べ物を用意しては他愛ない話をしてランチを摂る。

それはサンドイッチだったりマフィンだったり、
自分が愛してやまない日本の食べ物のオニギリだったり。







ランキング最下位争い中とは言え、
事件や会社に呼び出される事は少なくない。

毎日後から来て先に帰るので長居は出来てないものの、
飛んでいく鳥や行き交う人々とは違って、
穏やかに流れる●●との時間が好きだ。







「もうすぐ完成だね」

『次は何描こうかなー』



キョロキョロと見回すジェスチャーをする●●の髪が揺れる。

無邪気に笑う彼女がキラキラと眩しく見えた。





『あぁ、そうだ、イワンに渡す物があるの!』




隣に置いた荷物の中から取り出された一枚の紙。




「え?」

『イワンを描いてみたの。
良かったら貰って!』



パステルで描かれたソレ。

描かれた自分の顔は笑っていて。





「あ…有り難う!!」




誰かから貰った物がこんなにも嬉しかった事はない。

一瞬で何よりも宝物になった。











“TRRRRR”


「あ、」




空気を裂く様に、手首に装着したPDAが鳴る。

表示されたCALLの文字が少し煩わしくも感じた。





「行かなきゃ…」




いってらっしゃいとふわりと表情を緩めた●●に見送られ、
近くに呼んでいたトランスポーターに乗り込んだ。





内部に設置されたテーブルの上に●●から貰った絵を置いた。





忍者を模したスーツに身を包み、走り出す。

いつもは重い足取りも今日は違う。





「トップで到着したのはまさかの!
折紙サイクロンだー!!!」





マイク越しに響く実況のアナウンスと共に、
ビルの上から飛び出した。




今日は上手くやれそうだ。


そんな気がした。




(いつもよりも高く跳べる気がした。)

To be continued

20111030



まさかの続き。
結構長くなったので一度切ります。

イワン可愛い。
と言うか若手リンリンコンビが好き。

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