▼許されない恋心 「●●さん」 クラシックが静かに流れ、オレンジ色の間接照明の中、 カウンターに並べられた背の高い椅子に腰を掛けている女性。 長い髪を耳に掛けながら、よく冷えた白のワインを口の中で転がしている。 『Jr.!』 声を掛ければ、年上と思えないくらい無邪気で無垢な笑顔が向けられた。 いつ見ても人を暖かくする人だ。 柔らかな木漏れ日の様な、 優しく頬を撫でる春風の様な。 「お久し振りです。」 『久し振り! 相変わらずヒーロー様はお忙しいみたいね。皆の活躍は見てるわよ!』 彼女の隣の席に着き、カウンター越しの定員にロゼを注文した。 慣れ親しんだ店の為もあり、 自分好みのお薦めワインを出してくれる。 勿論、オーダーしなくとも、ロゼ派だと解られてはいるのだが。 「『乾杯』」 出されたグラスを軽く目線に持ち上げて、少しだけ傾け合った。 一口口付ければ、食道をゆっくりと下っていくアルコールを感じ、 ほのかな葡萄の芳しい香りが鼻から抜ける。 『虎徹とはその後、仲良くやってる?』 硝子製の美しいカッティングが施されたプレートの上のチーズに伸ばされた細い指を無意識に眼が追う。 ●●と出逢ったのは他でもない、戦場とでも言おうか。 僕よりも先にデビューしていた彼女はスカイハイに次ぐヒーロー。 一部のファンからはQueenと呼ばれ、大活躍していた。 それは遠くない過去の話。 暴走したNEXTを抑える為に立ち向かった●●は肩に大きな傷を負った。 生活に支障は無いものの、前と同じ様には戦う事は出来なくなり。 スポンサーの思うようには動けなくなった身体が、 ライバルとは言え皆の邪魔になるからと、一人引退を決意したのだ。 早すぎる引退と言う別れに多くのファンが泣いた事だろう。 企業側も引退を渋ってはいたが最後は彼女の意志を尊重させた。 「おじさんとは相変わらずですよ、」 『虎徹はお節介だからJr.の癇に触るんでしょ』 “虎徹”と“Jr.”。 『イワンはこの間も見切れていたわ! カリーナは…』 ふっくりした唇から零れる名前は元ライバル達の名前。 時たま暇が合えばこうやってワインを飲む仲ではあるが、 お互いワインが好きと言う事と、この店のマスターの顔見知りと言う共通点だけで、 特別な間柄と言うわけではない。 僕だけの彼女ではない。 アルコールのせいでほんのり色付いたピンク色のビスクドールの様な頬に降れる事も、 胸元まで綺麗に伸ばされたブラウンの髪に指を通す事も、 細く折れそうな指に自分のソレを絡める事も。 どれも僕は許されてはいない。 「おかわりを下さい」 グラスの底に沈殿した薄紅色を一気に飲み干せば、 渇ききった心も少しは潤うんじゃないかって。 そんな馬鹿な事を思った。 『相変わらずJr.は強いわね』 「そんな事…無いです。」 自分には一番似合わない言葉なのかもしれない。 僕は強くない。 渇ききった心とは裏腹に、込み上げてくる涙に溺れてしまいそうです。 いっその事沈みきってしまえば楽なのかもしれないが、 それでも●●の目には強いバーナビーで写っていたい。 そんな小さな足掻きを貴方は笑うでしょうか。 少しでも曾てQueenと呼ばれた、全てを捨てる事が出来た強い貴方の様に。 『Jr.、アタシね…』 静かに流れるクラシックがやけに耳についた。 ワイングラスのステムをつぅっと撫でながら、 嬉しそうに●●が笑う。 あぁ、もう想う事も、憧れる事も許されないのですね。 堪えた涙が身体中を侵食して壊れそうだ。 上手くに笑えていますか。 上手くおめでとうと言えてますか。 胸が痛い。 貴方に恋していました。 (アタシ、結婚するの) end 20111024 タイバニをやっと半分まで見れたー。 折紙サイクロンとドラゴンキッドが可愛い。 バニーは救えない恋をしそう。 ←一覧へ |