▼眩暈-壱






誰かの囁きが、何かの呪いのように耳にこびりついていた。それは耳鳴りに似た不快音で、眩暈を伴って頭の中を揺らす。
身体が乱暴なまでの力で後ろに引っ張られたかと思えば、水中から酸素を求めて顔を上げた瞬間のような感覚。水面が揺れるように、瞑った眼の裏がグラグラと泳ぎ、息をし忘れていたのか、口を思いきり開いて空気を吸った。
一気に肺に取り入れられたそれに驚いたのか、喉が噎せ返る。胃液の味が喉の奥でした。


「ーーーー大丈夫ですか!?」


焦りを含んだ声がする。宥めるように肩を擦る手がひんやりと冷たくて、思わず肩が跳ねた。
肩を上下させながら何度か空気を嚥下し、漸くゆっくりと瞼を開ける。視界に飛び込んできたのは、きっちりと手入れが施されている草木と、小さな石で縁取られた池。青い青い空が塀越しに在って、ふっくらとした真っ白の入道雲が見えた。
広い広い日本庭園。
その手前には御簾が掛けられ、所々花結びで飾られている。


「目を覚まされましたか、……乱、お水をお持ちして差し上げなさい」

「はい!」


パタパタと足音が響く畳の間。
辺りには井草の懐かしい匂いが漂っていた。これだけ広い部屋は、昔田舎の曾祖母の家で見た位だ。今みたいに、蝉の鳴き声と風鈴の音がする夏の日だった。






→続く
日記に上げていた分です。

20150706


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