▼第三楽章
















コンクリートに囲まれている所為か少し冷えた空気の中、
コツンと靴音が廊下中に反響した。

窓から覗く空は雲一つ無い青が広がり、
階下の中庭では男子生徒がボールを蹴り合って騒いでいる。

無邪気にはしゃぐ聲が。
笑い合う聲が。

やけに癇に触る。



目頭に感じる重み。
硝子のレンズ越しに見える狭い視界。



溜め息が空に溶けた。










第三楽章












「●●ちゃん!」

『林檎先生と龍也先生』




二人分の靴音とアタシの名前を呼ぶ聲に振り向けば、
大きな瞳に桃色の長い髪を靡かせた月宮林檎と
高い身長にスーツ姿の日向龍也。


現役乙女系アイドルとアクション系俳優が静かな廊下を彩る。




「授業はその後どう?」




瞳をくりくりさせながら人差し指を口許に当てながら、
少し首を傾ける林檎先生。
その行動はそこらの女子よりも女らしく可愛らしい。

女装アイドルとして世間が騒ぐのも無理はない。




『まずまず、かな?』




以前から顔見知りの彼らはこうやって時折、
アタシの事を気に掛けて聲を掛けてくれる。

自分達の担当するクラスの生徒でもないのに。





「AかSに来れば良かったのに…」

『うーん、二人に迷惑を掛けたく無いんだよね』

「…今更気を使う間柄ではないだろうが」





近付いてきた龍也先生が髪を無造作にグシャグシャと撫で回す。



綺麗に纏めてきたのに!とその手を払えば、
あまりお目にかかれない笑顔を見せた。

時たま見せる彼の笑顔はその綺麗なパーツをくしゃっとさせて笑う。

少し悪戯に。

ソレが自分のよく知る龍也先生らしくて好きだ。





『まぁ、なんとかなるよ。』

「…でもパートナー解消したんでしょ?」






どこからかパートナー解消の話を聞いたのか、心配の色を含んだ林檎先生の聲。




手にしていた楽譜や教科書を握る手の力が無意識に籠る。




正直なところ、どうしても組みたい相手では無かった。

いや、この際誰でも良かったのかもしれない。

ただ彼がBクラスの割に高音が綺麗だった、
ソレだけの事。





『うん。アタシの歌は歌えないんだって』





先日、彼が吐いた言葉が頭を過った。







「それは…!」

『リンちゃん』






聲を遮るように吐き出す。

昔からの呼び方にぐっと堪える彼に“大丈夫”とだけ被せた。






「…手伝える事があれば言えよ」

「ホントよ!」

『有り難うございます。日向先生、林檎先生』






ポンポンと両肩に感じる二人の掌にふわりと笑顔を返す。

先程までの苛立ちが少しだけ消えた気がした。



アタシよりも背の高い二人。
昔から気に掛けてくれている彼らに甘え続けて来てしまったふしは否めない。

この心地良い空気が、二人が大好きだ。






「じゃあな、●●」

「またね」




授業が始まる十分前を告げるベルが聞こえたので、
今度また歌を聞いてねと言って別れた。




窓の外、小さな鳥が飛んでいくのが見える。




昨日作った曲のメロディーを鼻歌でなぞりながら、
遠退いていく靴音から離れるように午後の授業の部屋へ向かう。






中庭ではしゃいでいた聲は授業へ向かったようで
辺りは静けさを取り戻していた。







パートナーは焦らず探そう。
そう呟いた。








(新しいフレーズが生まれた瞬間)

To be continued

2011119





少し前向きの一面を書いてみました。

どうしても何も考えないと暗い方向になってしまう。

捏造どんとこい。
うたリピ下半期まで来たけどゲーム沿いは無理だと再確認…。

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