▼第二楽章












「こんな歌っ、…歌えるわけ無いだろ!」





人気の少ない校舎裏。
突如風に乗って飛んできた紙切れ。

僅かに見えた五本の線。
ソレが楽譜だと判別させる。




「パートナーは解消だ…」




吐き捨てるような聲が響いた。









第二楽章










「トキヤはもうパートナー決まった?」




聲を掛けてきたのは、ハットがトレードマークの来栖翔。

休み時間で主の居ない前の椅子に逆向きに座り、
背凭れに両腕と顎を乗せている為、
覗き込むようにして此方に視線を寄越した。





「いえ、翔は決まりましたか?」





この学校を卒業する際、とても重要なパートナー。
作曲家コースの生徒とペアを組んで卒業オーディションに挑まなければならない。

勿論自分の歌唱力云々の問題はあるが、
組む相手次第で決まるとも言える。





オーディションで優勝できる曲を、
歌いたいと想う曲を、
聞き入るような曲を。

そんな曲と出逢えたなら。





自分の持つ全てで、全身全霊で歌い上げるのに。





事務所の方針で思う様に歌う事が出来ない今、切に願う。




「やー、それがまだ決まってねぇ。」

「まだ時間が有りますからね。」





“お互いゆっくり探しましょう”なんて言っていたのは約2時間前の事。







午後の授業も終わり、仕事の入っていない今日。

静かに読書でもしようかと足を運んだ校舎裏で
立ち聞きするつもりは微塵もなかったのだが。











彼方へ走り去る男子生徒を目で追う彼女は先日のラピスラズリ。
溜め息と共に紺碧の瞳が空を仰いだ。


彼女の手には無惨に千切れた楽譜。
その欠片が先程飛んできた一枚なのだろう。




「あの、」

『…一ノ瀬さん』

「コレを」




芝生の上に腰を掛けている彼女に近付き
小さな紙切れを差し出すと、細い指がソレを受けとる。



微かに揺れた紺碧。


泣いているのかと思ったが、
一瞬で色を取り戻したソレ。




『有り難うございます』




にこりと細められた目。





「立ち聞きするつもりは、」

『一ノ瀬さんには色々拾ってもらってばかりですね』




先日彼女の持ち物を拾って届けたばかり。
その映像が再生される。




『コレはゴミになってしまったけど。』




ざわざわと音をたてて木々を揺らしていた風が凪ぎ、
小さく呟いた聲が静かに響いた。

掌の中の紙切れ達を持っていたクリアファイルに挟み、
溜め息を付きながら立ち上がる。




『じゃあアタシはこれで。』




先日と同じく、ポンポンとスカートの裾を払う仕草。




「君は…どこのクラスなんですか?」

『ソレを聞いてどうするんですか?』




スッと上げられた紺碧の瞳とまたかち合った。

ワントーン低く発せられた聲と
有無をも言わせないどこか強い目が静かに向けられたまま。

風と木々の音だけが過る。




「え、あ…。」




“どうする”と聞かれるとは思っていなかった。




『Sクラスの一ノ瀬さんには全く関係ないクラスですよ。』




どこか自嘲を含んだ聲。



ソレを吐き出しながら
背を向けて立ち去る彼女にかける言葉は喉で止まる。




その背中が校舎に消えるまで、動けなかった。




彼女の拒絶する様な声が、態度が、
いつだったか“関わらないで欲しい”と
Aクラスの女子に吐いた自分と重なった。





(関わる必要は、無いのかもしれない)



To be continued


20111031




ヒロインの名前変換を使っていない事に書き上がってから気付いた。
次は早々に出ると思います!

時系列がごちゃ混ぜかもしれません…。

←一覧へ