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アタシは降りた。
自分の足で。

例えそれが真っ暗な世界でも良いと思ったんだ。

ただ、抗ってみただけ。

この航路が、決められたレールな気がしたから。





































「久しいな、クラウド。」



赤く染まった月の下、革張りのソファーに深く腰を掛けた男がワインの入ったグラスを空けながら呟いた。



低く響くこの聲の持ち主は“クロス・マリアン”。
長年見知った戦友であり、自分と同じく元帥と言う立場に就いている。


顔の半分を隠す仮面に、腰まで長く伸びきった髪。
足を組んで反り返り、グラスと煙草を持つ姿はとても聖職者には見えない。





元帥同士が教団の外で顔を合わせると言うことは多くない。
一人一人複数のイノセンスを所持しているので、只でさえAKUMAや伯爵側から狙われることが多く、数人集まれば現在存在しているエクソシストの数を越えたイノセンスが揃ってしまう。

そんな理由がなくとも、このクロス・マリアンと逢うことは稀だ。
三ヶ月に一回の定期連絡もせず、収集があったとしてもソレに応じない。

そんな男に「頼みたいことがある。」と呼び出されたのだから一大事だと思った。
いや、確かに一大事ではあるが。




「コレを頼む。」




グラスを持つ手で“コレ”と窓側に立つ緋を指す。
真っ黒な空から落ちて窓ガラスを叩く雨をじっと見つめる緋は、燃え盛る焔を模した深さ。
クロス・マリアンの金色のゴーレムを肩に乗せて、“Tim”とそのゴーレムの名前を湿気で曇った窓ガラスに、辿々しく人差し指でなぞった。




「行くぞ、ティム。」




クラウドの返事など求めてもいない…と言うかのように空になったグラスをサイドテーブルに置き、トランクを片手に部屋を後にする。
パタパタと部屋を横切る金色がクロスの肩に降り立ち、「じゃあな、」と紫煙を吐き出しながら闇に消えていった。





−――あの男はいつもそうだ。





一切の説明もせずに自分勝手に事を進めていく彼の性格のせいで、今までも何度振り回されただろうか。
自身の目的を遂行する為にはどんな犠牲も問わない。
肩に乗っているイノセンスのラウ・シーミンを一撫でしながら、軽く溜め息をついた。





「……名は?」




クロス達が出ていったドアを見つめ、立っていた窓際から向かいのソファーにと腰を掛ける緋。
黒のワンピースを身に纏い、深い緋色の髪と瞳をしたソレと眼が合った。

くっきりとした二重に長い睫毛の端正な目鼻立ち、そして何よりも引きずり込まれそうになる様な強い眼をしている。




『name、は…ナマエ。』




鈴の音のような、リンと響く聲。

この聲音は日本人のソレ。
しかし日本人特有の黒く絹糸のような髪でも黒曜石のような瞳でもない。
絶対的な緋。




『…ミョウジ ナマエ。』




その澄んだ聲と共に、キィィィンとイノセンスの在る音が微かに共鳴するように聞こえた。





―――ミョウジ ナマエ。


14歳の不思議な空気を孕んだ少女と出会ったのがこの時だった。




to be continued

first:20110724
reload:20120321

再スタート。
少しづつ書き加えたり足したり、新な物語を足したり。
深さと言うか奥行きをつけていきたいです。
また彼女たちの戦いにお付き合いいただけましたら幸いです。






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