05 破壊していく音が聞こえた。(5)










『……っ!!!』



呼吸が整う程度の時間をそうしていた。
ほんの数分の事だ。
回復力は一般人よりも数倍有ると実感している。


そんなアタシ達の疲労が回復するや否や、右目の端に靄がちらついた。
その靄は蠢きながらアタシの視界を埋めようと広がっていく。
スゥ、っと一息大きく吸い込んで、両手に力を込めた。



「ナマエ?」

『イノセンス発動!ラビ、AKUMAだ!』



其方へ眼をやると同時にイノセンスを発動させる。
手足に紅く燃え上がる炎を纏わせ、身構えた。
ジュッと言う音を立てて、身体に付着した雪が一瞬で蒸発する。
足元のソレも水へと変化し、自身が発した炎と共に足元から巻き上がる風に溶けた。
それに乗った髪がふわりと靡く。

隣にしゃがみこんでいたラビの首根っこをひっ掴んで立ち上がらせれば、その反動を利用してウォーミングアップの様に跳ねた。



『もう……報告よりも多いってば!』


ファインダーから送られてきた情報と、コムイから聞かされた情報よりもその数は確実に上回っている。

切り裂くような叫び声と共に遥か上空を黒く染めるのは球体のAKUMA。
黙視でははっきりとした数は分からないが、さっきまでの青い空は、見えない。



「ダイジョブ、雑魚ばっかりさ!」

『そう言うなら…、ラビに任せちゃうよ?』

「それは酷ェ!」



なんて、冗談は置いておいて。
全てレベル1なのが救いである。
球体の禍々しいボディに無数の砲身。
見渡す限りの空を埋め尽くす、憂いを帯びた不気味な顔。



『焔球!!』



多いと、報告とは違いすぎるアクマの数に苛立ちながら、掌を上に向け指を弾くとその少し先でぐるぐると出来上がる渦巻く緋。
その小さな炎の弾丸が空気を巻き込みながら、物凄いスピードで飛んでいく。
AKUMAの真っ黒なボディに触れた瞬間、ドォン!と言う轟音を立てて爆発し、それに誘発するように周りを引き連れていった。



「満!満!満!」



器用に柄を両手で身体の周りで回転させながら、倍々に大きくなっていく鉄槌を構える。
ラビの身体の数倍以上に形を変えたソレを、地面を蹴って高く飛び上がりながら振り翳し、力一杯AKUMAのボディを叩き付けた。
ラビは鉄槌で、アタシは炎の塊で、浮かぶボディを撃ちつつも、砲撃によってえぐりとられた地面の上を、鉄の雨を避けながら走り抜け、片っ端からソレを打ち落とす。
敵も大人しくやられにきた筈もなく、身体中の銃口から無機質な砲弾を打ち出しては此方を攻撃し、塵煙を上げる。




寄生型なので眼に染みる程度だが、AKUMAの煙は嫌いだ。
いや、好きな人なんて居ないだろうけれど、イノセンスによって打ち砕かれ、轟音をたてて消え失せる瞬間に立ち込める煙。
それはAKUMAになった人間が消える瞬間であり、救済することが出来た瞬間の筈だ。
しかし、その煙はアタシの眼を酷く刺激する。

まるで責めるように。



「ナマエ!」



不意に聲が響き、そちらに眼をやると目が合ったラビが頷く。
そして大きな鉄槌を一度、ぐるんと振り回した。


アタシとラビが組む回数が多い理由。
それは単純に、相性がいいのだ。
イノセンスの。
戦い方の。



「コンボ技さ!…火判、劫火灰燼!!」



ラビの身体の回りに現れた光の文字の、そのうちの一つを振り翳した鉄槌で打てば、地面に浮かび上がる炎の蛇。



『紅ノ弾丸!!』



ぎゅっと握り締めた空気を、力一杯放り投げる事で生まれる大きな炎の球体が、指をぱちんと鳴らすと幾つもの火の塊に分かれた。
ソレをラビの炎の蛇が蠢くのに合わせて撃ち込めば、一気に火力は増していく。



「よし!」



これは破壊力も速度も上げて、広範囲にわたり一気に攻撃できるよう編み出した技だ。
勿論それなりに体力も消耗するし、その攻撃を繰り出している間は隙が多いのでリスキーな技ではあるのが。
こう囲まれて、チマチマと壊していくにはっ手取り早い。
特にレベル1相手には持ってこいの技だ。

ラビがガッツポーズを決めながら槌を納める。
AKUMAの気配が完全に消え、晴れた視界の靄。
それに合わせて抜けていく力に肩を下ろせば、また、足元から巻き上がった風に孕まれて、炎も消えた。
あっという間に辺りを焼き尽くした蛇は満足そうに消え、空は青々と晴れ渡り、森には静けさが戻った。



『お疲れ様、ラビ。』

「おう。ナマエもな。」

『やっぱり合わせ技はやめらんないね!』



ラビと軽く掌をパンと合わせて弾ませる。
少し息が切れているものの、にやにやとまるで悪戯が成功した時のように笑うラビに、これまた同じ様に笑って返した。



「マジでスカーッとするさ!」

『ね!』



この技は何十体居るか解らないアクマに囲まれた、西ドイツの任務中に苦肉の策で考案したのが始まりで。
もう逃げる気も起こらない位の四面楚歌。
やってみようか、とラビに言えば、ヘラっといつもと変わらない笑いを見せてくれた。
瓦礫の中、諦め半分で二人、力をこめた。
ラビが初めて第二解放のコンボ判をやらかしたのも、この時だった。

たまたま成功したものの、成功する保証は無かったし、体力の消耗等一切考えずにぶっつけ本番をしたのだから、ブックマンとコムイにきつく叱られたのは言うまでもない。

教団に帰ってきてからはコンボ技のタイミングを掴もうと、今まで以上にラビと組んで鍛練場に籠った。
最初は第二解放の感触を。
次は技が発動するまでの時間を。
そしてどの力加減が一番合うのかを。
どの技同士が合うのか色々試してみたものの、反発し合う力が相殺しあったり、もしくは鍛練場を半壊にするなど、コムイの頭を悩ませたりした。

ただ、元々感覚が似ているラビだから、息が合うのにそう時間はかからなかったし、お互い鍛錬で体力をつけた事で、身体にかかる負担は減った。
寧ろ一体ずつ倒すより手間が省けるので、今では楽だ。



『て言うかアクマは全部倒せたけど、さっきのファインダー何処行ったんだろ…』



AKUMAが無差別に撃ち放った砲弾をのお陰で見渡しは良くなったけれど、周囲を見渡してもソレらしい人影は見えない。



「あ、」



谷の方を見ていたラビの方に顔をやると、彼は何かを見つけたらしく、ちょいちょいと手招いてみせた。

なに、と言おうとした。
その時。
がっしりと掴まれた腰。



『……は!?』



セクハラか?と言う考えが頭を過って、それを口にしようとした瞬間に、にやっとしたラビの笑顔に嫌な予感が走る。
こう言う時の動物的な感覚と言うか、予感は結構当たるだけに、口許が引き攣った。



『ま、さか…、』

「そのまさか、さ。」



笑顔と鉄槌の柄を此方に向ける、ラビ。
嫌な予感は的中。
何度もこれに乗せて?貰ってきたけど、柄を握って移動する手段は正直苦手だ。
と言うか大嫌いだ。
ガンと勢いよく飛び出して、勢いよく下降するため、物凄く気持ちが悪い。



「そのうち慣れるさ!」



と、無責任な言葉と共に「伸!」と、心の準備もくれずに出発したのだ。





To be continued.

20130228


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