▼月明かりのワルツ














大きなシャンデリアの下、華やかなドレスのマダムや、燕尾服のジェントルマン。
2方向に伸びる大きな階段もあり、広いフロアの端ではオーケストラがクラシックを奏でていた。


こんな大きな舞踏会を開ける家柄は滅多に居ない。
集まる人々も名高い貴族達、まさに最上級クラス。

本日の主催者であろうマダムが招待客を饗す様、
声をかけ挨拶をしていた。










我が愛娘と共にきらびやかな下のフロアを一望できる、
少し静かな二階で品定めをしていたところだった。



「あの子可愛い」

「僕より?」

「ロードの方が可愛い」




コレでも一応外務大臣。
そして愛妻家だ!



慎ましい妻と美しい娘、何不自由無い暮らしを送っていたが、
一つ欲しくて堪らないモノが出来た。

が、ソレは我が愛する弟のせいで手に入らない。




―――どうしたものかな。






フロア中の女性と言う女性の視線を集め、
人だかりの中心に居る彼を眺めた。
こう言う社交界では得をするナリだ。



切れ長のくっきりとした眼に、
鼻筋の通った端正な顔。
身長も高く、
薄い唇から吐き出される音は心地良いテノール。

癖のある少し長めの髪と、
目元にある一点の黒が彼を妖艶にさせている。
いつ見ても自慢の愛おしい弟だ。






「お父様ぁ、顔が崩れてるよぉ」

「いかんいかん」




はっと我に返り、口に手を当てた。
我が弟、ティキに見惚れすぎてワインを溢すところだった。

















階下から沸き上がる声。

そちらに眼をやると、ティキが主催者の一人娘と
ワルツを踊っているではないか。
社交界デビューだ、と先程挨拶を受けたが
辿々しいステップで彼と舞う。

幼さを残した可憐な少女だ。









「こ、今度はお茶会に是非いらしてください!」

「ありがとうございます」

「あのっ、、、」






曲が終わったと言うのに離れようとしない彼女は、
彼に気に入られようと話を振っていた。
頬赤くして必死な姿が見える。





『モテモテ、ですね。』

「●●!!」

「●●だぁー!」

『こんばんは、シェリルおじ様、ロード。』




駆け寄ってきたロードを抱きとめて、ペコっとお辞儀する●●。


僕が一番欲しいモノだ。




とても可愛らしい彼女を養女に迎え、
コレクションに加えたい。
トリシアとロードと●●。
3人が戯れている所を想像するだけで、ソレはもう…!






「変なプレイするなよ、
絶対ェダメだ、シェリル兄サン。」

『ティキ!』

「Hola!ティッキー」





いつの間に上がって来たのだろう。
●●を後ろから抱き締め、睨み付けて来る彼は
先程まで階下の注目を一身に浴びていた我が弟。

猫を被った社交辞令は下のフロアに置いてきたのか、言葉遣いは荒い。
















シェリル兄サンから●●を離し、腕の中に収めた。
ロードの近くにいると邪魔をされてしまうので、
腕を引きながら階段へ向かう。



危ないところだった。

もう少しであいつの変な家族ごっこにこいつを参加させてしまう所だった。



―――これ以上、家族になってたまるか。






『可愛らしい彼女はもう良くて?』

「…見てたのか」






するりと腕から抜け出し、纏っている膝丈のドレスの裾をひらりとはねさせた。
カツンと舞踏会靴を鳴らし、手にしていた扇子で悪戯な笑顔を浮かべながら、
その口元を隠した。




機嫌を損ねてしまったオヒメサマ。

近くにいたリボンを付けた紳士にダンスを踊ってくれないか、
なんて馬鹿げた事を言い出した。




冗談でしょ。





「●●!」

『なによ、ティキ。アタシはこのダンスアテンダントさんと踊るん…』

「一曲、踊っていただけませんか」






男性の手に添えていた腕を引き寄せ、
少し屈んで彼女の手の甲にキスを落した。
そのまま目線を合わせる。

後ろで此方を窺っていた男性に、不要だと合図を送った。







『踊るって言ってないんだけど』

「良いでしょ、楽しもうぜ」




ふわりとレースとモスリンが舞う。

フロアの真ん中辺りまで来て、手を離すと
軽くドレスの端を掴み、ちょこんと挨拶してくる●●。
右手を左胸付近にあて、お辞儀して返す。




肩と自分のソレに添えられる手。
ショート丈のレースの付いた手袋を嵌める小さなソレが何より愛おしい。












シェリルの養女になんてさせねェ。
この小さな手は近い将来、自分が手に入れる物なのだから。














三拍子の優雅なワルツに乗せて、君を想う。





End







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□あとがき□



ティキ夢でした。
と言うよりシェリルの方が出番が多い。。。
シェリルの妄想とかが一番長かった(笑)

別タイトルは着飾ったホームレスw



ただでさえ家族なのに、人間時も家族になってしまいたくないティキでした。
ちょっと余裕ない感じ?



最後までお付き合いありがとうございました。




20110810




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