▼黒の聖域











「好きです。」



付き合ってください。

そう告白されている●●を見かけた。


























「ユウ!探したさ!」


「刻むぞ、貴様」





駆け寄ってきたオレンジ頭に剣先を向ける。
勘弁して!と言うかの様に両手の平を此方に見せ、
降参のポーズをとる馬鹿兎を一瞥。



馴れ合う気など更々無いのに、
いつも此方の領域に侵入して来るこいつは
先程見た少女の告白話を振ってきた。




こいつも見ていたのか、
相手の男はファインダーだとか、
オレらと同い年だとか聞いてもいない情報を寄越す。
























――先程の少女、とは同じエクソシストだ。

半年前に教団へやって来て、
あっという間に全団員に受け入れられていた。



胸元迄の柔らかな栗色の猫っ毛を風に靡かせ、
琥珀色の大きな瞳で真っ直ぐに向けてくる。

オレと同い年のアイツは聖母マリアか、
はたまたナイチンゲールか、
と言うかの様に惜しみ無い笑顔を老若男女問わず与えるのだ。


そんな彼女の周りにはいつも人が居る。
居心地が良いのだろう、この万年発情期の兎だけでなく、
リナリーやモヤシ達も懐いていた。




そんな●●だ、告白される回数も少なくない。
オレが何故回数を把握しているかと言うと、
目撃情報を入手する度に騒ぐこいつのせいだ。

















「うるせェ」

「…不機嫌さ?」

「…刻まれたいようだな」





覚悟しやがれ。
そう言いながら愛刀に手を伸ばす。




「っ!ユウは気になんないさ!?」

「なんねェ」

「っでも!」




必死に食い下がるラビ。

付いてくるな、と声を荒げようとした時だった。

目の端に入ってくる栗色のソレ。
少し目が赤かった気がした。
森の方に向かう姿が、何故か小さな身体を更に小さくしているようだ。



「ユウ!?」



馬鹿兎の声は無視。
気が付いたら追い掛けていた。






































――何処だ。





確かに此方の方へ行った筈。
辺りを見回せば、
木の幹に腰掛け彼方を見る●●。
弾かれる様に足を向けた。











「…何かされたのか。」





気の聞いた言葉など知らない。
気の利いたタイミングも知らない。

見えたからだ、と自分に理由付けた。




『何も、されてませんよ。』

「こっち向いて言え。」

『今は、、、今は出来ません。』




放っておけと小さく漏らすソプラノの声は、
いつもより少し掠れていた。

チッと小さく舌打ちし、その場に座り込む。
その音に●●の肩が跳ねた。

胡座を組み、片手で頬杖を付く。
彼女とは一定の距離を保っている為、
顔が見えない。
















暫く、沈黙が続いた。


隣に居る●●はそんな心境では無いだろうが、
静かな空間が酷く落ち着く。

風が青々とした木々を騒めかせ、
小鳥の囀りが聞こえた。
水面が綺麗な波紋を描く。
初夏だと言うのに頬を撫でる風が心地良いのは、
教団の位置のせいだろう。


ふ、と小さく息を吐く。
今、この場に居るのが自分で良かった、と落ちてきた葉を見ながら思った。








































他人に興味など全く無い。

馴れ合うつもりも無い。

想い人も思考を埋めるただ一人だけ、だったのだ。





しかし半年前に入団した●●、最初は他の奴と同じだった。
女のエクソシスト等、足手まといとすら感じていた。

しかも新人。










一度ほんの気まぐれに。
絡まれている所を助けたのだ。

絡まれる、など迷惑極まりない。
今までならそう告げた。
いや、この時も告げる筈だった。

唇をぐっと噛み締め、
琥珀色の眼から涙を流すまいと堪える●●を
見てしまったのだ。

自分の中で沸き上がる何か、を感じた。























それ以来何度かこう言う現場に遭遇し、
●●が落ち着くまで側に居座る。
この涙が誰かに見られない様に。



勝手なエゴだ。









『…神田さんは、何故、アタシに優しく…するんですか、』

「優しくなんかしてねェよ」

『でも、いつも…』




枯れたソプラノがゆっくりと言葉を紡ぐ。
向けられた眼に、堪えている涙。









――あの、顔だ。





優しくなんかしていない。
勝手に居るだけだ。





『鬱陶しいだけでしょう、優しくしないで下さい。
――これ以上はっ…、』

「うるせェ」





期待してしまう、そう、腕の中で小さく吐き出される。
不意に抱き締めた細い肩。




「見たくねェだけだ、お前のソレを。」






期待でも何でも好きにしろ。
●●だけに聞こえる声で告げる。
オレの肩に額を当てて、団服を掴む手は震えていた。






「ひとりで泣くな。」





聖人の様な●●を誰も穢させはしない。






此処はオレの聖域なのだから。


















End







□あとがき□


ヒロインは告白される度に神田への想いを自覚していたと思います。
意中の人に毎回優しくされたら、
しかも神田みたいなタイプだったらきついのでは。


とにかく難産でした。

なんか甘い感じが書けない!?
艶っぽかったり依存ぽいのは書けそうなんですが、
恋!!!てのは文にするのがホントに難しいのかも。




最後までお付き合い有難うございます。




20110807




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