▼負けられない戦い 『西洋カルタしないー?』 掌サイズのソレを片手に満面の笑みを浮かべ、 勢いよく談話室に入ってきたのは同じエクソシスト仲間だ。 「こんにちは、●●」 笑顔と挨拶を彼女に贈る。 こんにちはアレン、と花が咲くような可愛い笑顔を向けられた。 ふわりと柔らかい、 甘い蜜のような笑顔。 花が咲く、と言う表現が非常によく合う。 彼女は某バ神田と同じ人種と思えないほど、 コロコロとよく表情が変わる。 愛想がよく、人当たりの良い性格のため、 リナリーやラビ達がいつも側に居た。 そういう僕も教団に来てからよく食事したり、 任務で組んだりするので、結構行動を共にしている。 非番の時は約束事ではないにしろ、 自然と談話室に集まり色んな話をする仲になっていた。 今日も任務が無いリナリーと、 休憩しにきたジョニーと3人で3時のお茶を楽しんでいたところに、 冒頭の出来事が起きたのである。 挨拶するや否や、ソレを見たジョニーがやろう!と盛り上がる。 リナリーも乗り気のようで、 いそいそと机の上にスペースを作っていた。 『アタシ、ちょっと得意なんだ!』 昔友達とよくやったらしく、 腰に手をあてて自慢げに鼻をならす。 なんでも本人曰く、引きが良いらしい。 負けないよ!と腕捲りの仕草が何とも可愛らしい。 「何のゲームをするの?」 『大富豪?ハーツ? コントラクトブリッジ?それとも…』 何をしよう、とウンウン唸って考える3人に、 机の上に残ったケーキを指した。 「ケーキがあと一つなんです。 これを賭けてポーカーをしませんか?」 ポーカーならわかるわ!というリナリーが賛成の声を上げる。 カードをシャッフルする●●は ケーキはアタシの!と意気込んでいた。 負けませんよ、とだけ告げた。 「コール」 手の中にある5枚のカードを3人に見せる。 「「『………』」」 ロイヤルストレートフラッシュ。 (因みに3回連続。) 本当に引きが良いみたいで、 ●●はフルハウスやフォーオブアカインド(所謂フォーカード)を出してくるが、 この役の前では意味をなさない。 ポーカーがあまり強くない、 詳しくない人でもこの名前は聞いたことがあるだろう。 滅多にまず出ない、役だ。 既に手中のケーキを食べながら、 先程(2勝目分で)追加して貰ったみたらし団子も堪能し、 次は何にしようかな、 なんて飄々と言ってみた。 『おかしい!おかしいよ、アレン!』 漸く異変に気付いた●●が机を叩いた。 手にはフルハウス。 僕の勝ちだ。 カードをぐじゃぐじゃと混ぜながら拗ねている●●に、 まぐれだとしらを切る。 「――じゃあこうしませんか、 最後のゲーム一騎討ちで。」 モヤシ、馬鹿、と暴言を吐く●●に、 ひく付く口を押さえながら、持ち掛けた。 全力勝負、景品はお望みの物を。 何でもしますよ、と付け加えて。 その瞬間目が輝く。 以前より、僕を女装させたがっていたのだ。 勿論、そんな事はお断り。 ただ、乗ってくれれば良い。 『…わかった。乗るわ!』 「決まり、ですね」 拳を握り締め、気合いを入れている。 カードを配り、ゲームを始めた。 ポーカーだと言うのに顰めっ面の●●。 すみません。 欲しいんです、どうしても。 イカサマしてでも。 「コール」 4度目のロイヤルストレートフラッシュを机に置いた。 ●●は唇をぐっと噛み締めてソレを見つめている。 ●●はツーペアだった。 「僕の勝ち、ですね」 『…マケマシタ』 カードを集めて綺麗に纏める。 少し、いやかなりしょんぼりしてしまった彼女が、 溜め息を付きながら呟いた。 そんな姿も可愛いなぁと思いつつ、●●に近付く。 「景品はコレで。」 軽く響くリップ音。 え、と談話室に居た全員がこちらを見ている。 (勿論見せ付ける様にやってやった) 当の本人は頬に手を当てて、ぽーっとしていた。 次の瞬間、胸ぐらを捕まれ、激しく揺さぶられる。 「アッレーン!!ちょ、何やってるさ!!!」 「煩いですよ、ラビ」 「煩いじゃねェよ、お、お前!!」 イカサマ!ズルイ!●●に!ズルイ!と 単語をぎゃあぎゃあ叫ぶもんだから。 ちょっと静かにしてもらおうと殴りました。 (えぇ、勿論左手で) イカサマとか言わないで下さい。 (濡れ衣です。) そこに、ポンと、頭に乗っかる書類と現れた経理部の方。 「ウォーカー、コレは経費で落とせないぞ。 自腹で頼むな。」 言われている意味が解らなかった。 ここ数日は任務もなく、 教団内で大人しくしていたのだから、 経費云々が発生する筈がない。 頭に乗った書類を見てみると、 そこには某王室御用達玩具メーカーの請求書が。 僕の名前で、5ギニー。 5 ギ 二 ー 。 「っ、●●!」 『へ!?』 「そのトランプ、どうしたんですか!!!?」 ●●に詰め寄り、トランプを見る。 先程までは気付かなかったが、金色で装飾されて居るソレは 絵柄一つ取っても量生産の物と違い高級感がある。 入れてあった箱にも同様の装飾。 昔修行時代に荒稼ぎしていたソレとは、程遠い雰囲気を醸し出していた。 『ああ、さっき街までお使いに行ったんだけど、 その時買ってくれたの、』 クロス元帥が。 その言葉に目の前が真っ暗になる。 その場で崩れ落ちてしまった。 『アレン!?』 「気にするな、●●。辛い過去を思い出してしまったんさー」 ●●の肩に手を置いて、可哀想だよなーなんて苦笑いで僕を見てるラビ。 その瞬間、後ろから彼の首筋に当たる銀色。 固まったかの様に動かないのは、 物凄い殺気がしているからであろう。 「何触ってやがる。」 『ユウ!』 「行くぞ、●●」 腕を引かれて出て行ってしまった2人に、 取り残されてしまった僕達。 唖然と見つめてしまった。 あまりにソレが解りやすかったのだろう。 リナリーがおずおずと言い出した言葉に、 本日2度目の絶望(しかも立ち直れないレベル)を感じた。 「あの2人、一昨日から付き合ってるのよ…?」 「「「「えぇぇーー!!!?」」」」 響いた声は絶対僕ら2人じゃ無かった。 バ神田め…っ!! (アレンに頬っぺたちゅぅされた!) (…ぶっ殺す、モヤシ) □あとがき□ いつの間にか負けてると言う、 まさかの神田オチ\(^o^)/ かなりの難産なので超微妙な話に… ラビと神田を混ぜる気は皆無だったのに。。。 最後までお付き合い、ありがとうございました。 20110806 . ←一覧へ |