▼歩調













任務を終え、ホームへ帰還する道中、
少しだけ前を歩く同行者を見つめ、不意に思い出してしまった。
彼とそうたいして身長差の無い
よく行動を共にする黒髪の日本人エクソシストを。





『ラビって…足、長いね』


「身長高いからじゃね?急に何さ?」


『や、何でもない…』










最近隣を歩いていて、神田の背中を見た覚えがない。
常に横顔を見て歩いている気がする。





ラビの歩くスピードが速い?
二人の足の長さの違い?
インターバル?



いやいや、神田もそうとう足は長い。
そして歩くのも勿論速い。

(だってラビがいつも置いていかれるって言ってたし。)









『…まさか、ね。』


神田ユウと言う人間は絶対他人に会わせたり、気遣ったりしない。
コレは本当に言い切れる。
ほんの淡い期待も出来ない人だ。











.













『ふぅ、…神田何体壊った??』


「数えるかよ、んなモン」


『ラビはいつも聞いてくるよ!』





あいつがオカシイんだろ、そう言いながら駅に向かう神田の後を追う。
綺麗な黒髪が靡く隣に肩を並べれば、確実に少し落とされるスピード。





―――え、ホントに合わせ…、




その瞬間爪先に感じる衝撃と、前のめりになる身体。
此処は補整された道路。

躓く障害物は無い筈だ。



(ちょ、…!?)







ふわり。


両腕に感じる柔らかな体温と、肩に触れる黒髪。
傾きかけた身体には安定が訪れた。






「足元ちゃんと見ろ」


『見て、たんだけど…』


「ウソつけ、こっち見てたクセに」














『!!!』


不意に頬に集中する熱と、パクパクと空を吐いてしまう口。
神田にまで聞こえてしまうんじゃないかって位早鐘を打つ心臓。


所在なく視線を泳がしながら彼を見上げれば、
意地悪そうに弧を描く唇が眼に入った。

こんな笑顔は初めて、見た。







「だから目が離せねェんだ、お前は。」




神田から目を逸らすことは
ポンと頭に置かれた掌は未だ熱を持った頬に降りてくる。


親指が、唇を、掠めた気がした。





一連の流れがあまりにも自然で、
あまりにも優しい手で、
あまりにも甘く響く声だったので
思わず離れていく手に指を絡めてしまった。










『っあ!ご、ごめ…』


「いい」



ふと我に返り手を離せば追ってくる、細く長くそれでいてしっかり力強い掌。








取り戻した正気筈のその後の彼の行動によって、更に彼方へと手放すことになった。




「…●●」


甘いテノールが耳にキスをした。














End
.



□あとがき□


この話かなり気に入らない。
どこが気に入らないか分からないあたり余計。


まず絶対あり得ない気がしたけど、
歩幅を合わせる神田を書いてみたらこうなったと言う。

寧ろラビの方が合わせそうですが。。。








お付き合いありがとうございました。

20110821

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