▼陽炎













『ラビ、行かなきゃ』

「うん?うん、」



茹だる様な暑さ。


これでもかと言うほど晴天の空。
汗のせいで湿気を帯びた身体、
思考も何処かぼんやりで鮮明さに欠ける。
身体が重い。









それなのに彼女から離れたくない。
●●を閉じ込めた腕に力を込め、引き寄せた。







任務に行かなければ。


昨夜コムイから通達は受けている。
確かスイスとか言っていた気がする。
任務へ赴けばまた暫く逢えなくなってしまう。




久々に重なった非番ももう終わり。


同行する神田ユウと待ち合わせている時間までもう10分を切った。
水路には既に走って行かなくては間に合わない。
キレる漆黒の剣士が用意に想像出来た。






それなのに此処から離れたくない。
身体が、動かない。














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『ラビ、』


「…わかってるさ」



片手でガシガシと髪を掻き毟り、情けねェと自嘲した。
ハァ、と大きくため息をついて立ちあがる。

ベッドに投げかけたままだった上着を羽織り、バンダナを付ける。
右足の鎚を確認し、両手に黒のグローブをはめた。






「じゃぁ…」


『ラビ、いってらっしゃい』











ふわり。
甘い香りが鼻腔をくすぐる。
首に巻き付いた柔らかな細腕を抱きしめ、今一度●●の香りを記憶した。






「いってきます」







茹だる様な暑さの中。
少し弱気になった自分を知るのは、彼女だけ。












End
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□あとがき□

こう暑いとやる気が一切起きません。



最後までお付き合い有難うございました。


20110828
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