▼通り雨












『雨、きついね』






先刻から降り続ける横なぶりの雨は窓ガラスを激しくノックし、
空を真っ黒に染め上げて、一向に止む気配がない。


偶然被った非番、森で鍛錬も兼ねて日光浴でもしようか、そう言っていたのは一時間程前。

遅めの昼ご飯を平らげて少し休憩している時から、教団からは出られない位の雨粒が地上を濡らした。







窓ガラスから空を見ているのは同じエクソシストの●●。

気が合う彼女とはよく鍛錬をしている。
勿論、任務へ同行する回数も少なくはない。

自分と同じ色の髪から覗かせる表情は些かつまらなさそうだ。







「通り雨だろ、直に止む。」





激しく蠢く空の黒。

雨雲が彼方へ移動している。
広い談話室の中、二人分の気配しかない此処、
ましてや彼女が遠い空を眺め出してからは酷く静かで。
雨音がとても響く。





『あ、』


「どうした?」


『や、何でもなぃ…』





不意に発せられた声。
そちらへ顔を向ければ、向かいのソファに座っている●●の眼が少しだけ泳いだ。







その瞬間響く轟音。
数秒間の激しい雷鳴。
肩をびくつかせ、眼を伏せる彼女。

思わずフ、と漏れた声は気付かれずに済んだ様だ。




「怖ェんだろ」





そう言いながら隣に移動してやれば、おずおずと脇腹辺りの服を掴んでくる。
きゅ、っと握られた手。
小さくて白い。

先日の任務で負った傷のせいで絆創膏が貼られている手。














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『雨、止んだみたい』




●●の声が聞こえ、ハッとした。
手を見つめたまま、何分経ったのかは解らない。
静けさがとても心地良かった。





『神田?』


「あ?」





くいっと未だ握られたままの服を引っ張られ、彼女の顔に目をやる。
目線はまだ窓の外を眺めたままだった。
雨雲が去り、白い雲間から柔らかな日差しが差し込むソレは先程まで荒れていた天気とは思えない。




『一日鍛錬怠っても死なないよね』






左半身に感じる重みは●●が預けてきた身体のせい。
少し下を向いているせいで表情が伺えないが、左肩にそっと乗っかる黒。
唯一見える肌色は少し赤く染まっていた。





「今日だけ、な」







ソファの背もたれに体重を乗せ、自分に凭れる彼女の重みを受け止めた。
また静けさが戻る。

程なくして小さな寝息が聞こえて来たせいか、先程以上に心穏やかな自分。
また小さくフ、と漏らしそっと瞳を閉じた。










今はこの穏やかな午睡に身を預けて。












End
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□あとがき□


雨が降ってきたので思いついた小ネタ的な。

夏は激しい雨が急に降りだすのに、あっという間に止むから
傘が要るのか要らないのか悩みます。


この後任務から帰ってきたラビに茶化されるとイイ。

最後までお付き合い有難うございました。



20110828

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