▼不幸中の幸い












『マジで何でこんな事に…』


「みたらし団子が三本しか食べられない…」






目の前で項垂れているのは紛れもなく自分。







『ちょっ!!止めてよ!』


「おかしくないですか、●●の胃袋!」




ぎゃぁぎゃぁ騒ぐは●●ことアタシの身体の中に居るアレン・ウォーカー。
リナリーとお揃いの団服に身を包み、
今朝鏡の前で綺麗に結った茶色い髪のお団子頭。
顔は悪い方じゃ無いと思うわ!

此処に着てから結構な数に告白されてるもの!











ちょっと、人の身体でみたらし団子とか馬鹿食いしないでよ、
イメージ悪くなるじゃない。



小さなプレートの上に野菜たっぷりのベーグルとミルクティ。
それが不服なのかかなり凹んでいる。








そんな自分(アタシの身体)を客観的に見ている自分(アレンの中に居るアタシ)。


―――ややこしい!


視線を下げて身体に眼をやれば、奇妙な左腕に黒いパンツルック。
明らかにアレン・ウォーカーのソレだった。




目の前の夥しい数の料理はいつもだったら1/10も食べられないだろう。
ソレが寧ろお腹空いて仕方無く、
食べられちゃうから困ったもんだ。















.











これには教団1お騒がせ度の高い巻き毛が関係している。
だって二人で呼び出され、そこでココアを飲んでからの記憶がないんだから。




くそコムイに制裁をと探し回ったが
こういう時の逃げ足って本当に早くて関心ものだ。
見つけられないわ、お腹は空くわで現在に至る、と言う感じ。





オムライスの次にカルボナーラを平らげてしまうこの身体。
食べられるけど。

食べられるけど、なんか胸焼けしてきた気がする。




無意識に伸びた手がマンゴーパフェを掴んでいることも
少々あり得なくて頭が痛いのに、
静かに座っている自分(アレン)はみたらし団子が少ししか食べられなかった事に
ショックを受けていた。

くだらない。




「くだらなくは無いです」


『もう良いよ、食事ネタは。』



あーなんか精神的に病みそう。

そんなことを思って机に突っ伏した。
勿論デザートのみたらし団子は20本食べたけど。


















.










「…●●、顔色悪いぞ」

アレンと何をするでもなくちょっと憂鬱な気分を押さえ込む為に
食堂の机に突っ伏せば降りてくるテノール。


心優しく声を掛けてくださったのはなんと神田様じゃ無いですか!!
一気に気分が晴れるなんてゲンキンだなと思う。

ガバッと起き上がれば視界に入り込む黒髪の彼。
左手に蕎麦を持ち、アタシ(中身はアレン)の横に腰を下ろしている。
いつもなら嬉しくて仕方ないソレ。






お箸、使うの綺麗…なんて惚けた事を思っていたら聞こえてくる自分の声。



「へぇ、神田でも人を心配出来るんですね」


『へ!?』


「…!?」




目の前の自分(アレン)から吐き出される言葉に神田様もびっくりしていらっしゃる!
なんて事を言うんだあの似非紳士…!



―――ヤバい。


フォローできる状態じゃぁない自分の状況に嫌ぁな汗が伝う。


フフン、と言うかのように腕を組んで
見下した様な目線を神田に送っているのは紛れもなく自分で。
ちょ、フフンとかマジで止めてよ。




















.


















いつのタイミングかは忘れたが、
この似非紳士にアタシの想い人がばれてしまった。
と言うことは普通だったらさっきの言葉は出ない筈だ。

なのにだ。

アタシの身体でアタシの想い人に暴言を吐き、
上から目線で勝ち誇った顔を見せている。












(マジで止めて!本気で壊すな!!)



アイコンタクトを送るも
不敵な笑みを浮かべた自分(アレン)は此方を見ながらウンウン頷いた。





(ウンウンじゃねぇよ!!!)






伝える気はない。

コレが今の戦況も彼の性格も解っているから出した答え。
ただ今の関係を壊す気もないんだ。
ただ、彼の近くにいる女の子で良い。

幼馴染みのリナリーと同じ様な距離に居れるのが嬉しいんだ。













「アレン、バ神田は放っておいて談話室に行きましょ!あ、私の部屋でも良いですのよ!」


『なっ…!』







(何、“ですのよ”って!) と言いかけた口を掌で塞がれ、
腕を組まれれば食堂の入り口方向へ引っ張られる。





「早く行きますわよ!」

『ン――――!!!』

「…待て」




食堂に響き渡る神田の声。





「…もやしが、良いのかよ」




いつもより数段低いテノールが耳に届いた。
時間帯が少しずれている為、そう多くない人数が食事を摂っていたが、
その声に一斉に視線が集中した気がする。

周りの話声や物音が、止まった。









「…えぇ、良いですね。付き合ってます、僕ら。」


「は!?」


『っ!ないないないないないないぃぃ!!』











アレン(アタシの声)のあり得ない発言に驚きの色を表す神田。
その声に乗せて否定し、
我が身体(中身アレン)の細腕を両手で見つめ合うように固定した。





『アレン!さっきからヒトの身体で好き勝手に!
アタシが似非紳士と付き合う筈がないじゃない!』


「●●は、神田の事が好きだからですか?」


『そうよ!』


「?!」


「だ、そうですよ、神田」




辺りがシーンと静まり返っていたせいで響くアタシの声(注:アレンの声)。
にやりと意地悪そうな笑顔を浮かべるアタシ(中身アレン)。
自分が無意識に肯定した言葉に神田が困惑に満ちた表情を浮かべる。




「お前…●●なのか?」


『え、あ、やっぱ今の無し!すみませんすみません―――――!!!』


「あ、逃げた!!!」





アレン(中身アタシ…)に向かって名前を呼んだ神田に焦った。
そのせいで全く働かない頭のでひたすら謝り、思わず脱兎のごとく食堂を走り去ってしまった。












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『、ぐすっ…』


「お前はいつも此処だな」











教団内の一角にある第二資料室は滅多に人が来ないが、最奥の窓際に申し訳なさそうに置かれた二人掛けのソファ。
此処に逃げ込むのが癖になっていた。



前にも何度か、此処に逃げ込んだアタシを迎えに来た人。
今も目の前で腕を組んで立っている彼、神田ユウだ。




『ごめ、…神田、ぐす…』

「その格好で泣くな、気持ちわりぃ」





未だアレン・ウォーカーの姿のまま、膝を抱え座り込んでいるアタシに大きなため息を付き、
空いている隣に腰をかけた。





「一度しか、言わねェからな」

『え?』

「好きだ、●●」




その瞬間温かいモノに包まれ、視界が漆黒の髪でいっぱいになる。
がっちりとホールドされた腕に気付いた時には
耳をくすぐる心地良いテノールが脳内に回り切った後だった。




―――ドクン





その瞬間鼓動が大きく鳴りだし、呼吸が浅くなる。
身体が熱い、そう感じた直後、眩い光が身体を包み込んだ。



一瞬で収まったソレに眩んだ目を擦りながら、自分の身体を見やると
いつも見慣れているスカートとニーハイ。

頭をそっと触れば、朝セットしたお団子頭。



目の前を向けば、先程より高めの位置にある神田の顔。
目が細められ、どこか柔らかな空気を孕んでいた。









『戻った!!!ねぇ、戻ったよ、か…』

「で、返事は?まだ聞いてねェ」





意地悪そうににやけた顔が覗き込んだ。



『…大好きだよ、神田!』




今度はアタシが彼に抱き付いた。
誰のでもない、自分の腕で。





























「コレで良かったのかい?」


「えぇ、思った通りになりました」





目の前に出された紅茶に口を付け、事の発端であるコムイに笑顔を見せた。
デスクに肘を付き、顔の前で重ねられた手から覗く表情は苦笑いを浮かべ、
うさぎ柄のマイカップに注がれたコーヒーに手を伸ばしている。



「こうでもしなきゃ、あの二人馬鹿ですからね」


「…君は良かったのかい?」


「…清々しました。紅茶、ごちそうさまでした」




そう言ってソファから立ち上がり、指令室を後にする。
事の発端は実は彼、アレン・ウォーカーからの依頼。
最初は薬が試せると喜んだのだが。



「恋愛にも大人だねぇ、アレン君は。」





そう呟いたコムイの言葉は小さく響いた。






End?

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↓オマケ







「アレン、ユウ、オレは軽蔑とかしないさ!!!」



「「は?」」



「教団中の話題の的さ、二人が…その…恋仲だって!!
でも、オレは応援するさ!がんばれ!」






朝からすれ違う人の視線がなんか違うとは感じていたが、
まさか昨日の出来事で勘違いしている団員が居たとは!

おまけに空気の読めない馬鹿兎は二人の肩に腕を回し、何故か号泣している。






「「煩ェ、馬鹿兎」」

「ヒッ!!!」





両サイドから当てられるソレは各々の愛刀。
血の気が一気に下がった。




その後大聖堂で泣き続けるラビの姿が目撃されたとか。





「なんでオレが…」




End


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□あとがき□

超難産でした。
アレン絡むと難しい。
最後ラビが不憫ですが、纏め方に困っちゃって。。。



最後までお付き合い有難うございます。




20110827


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