▼焦がれた過去












この身体になってもう何か月経ったか、なんて気にしない事にした。






自分の身は自分で守る。
ソレしかない。

使命感などアタシの中には微塵もない。
今までと同じ。
生きる為に。



此処に付いて来たのはほんの気紛れ。
最初は行く気なんて無かったんだけど。
テワクが誘うから。
ただそれだけ。

そしてマダラオが入って行ったから。
ついて行っただけ。

そして死にかけている人が誰であろうと、
目の前にアクマが居た。
ただそれだけ。







―――発動





「喰ってやれ」

『来なさい』





「『喰機、開闢孔!!』」


悲痛な叫び声と共に左掌に吸い込まれるアクマ。
コレを経験するのももう慣れた。
いつもながら嫌な感覚ではあるけど。

左手の発動を解き、マダラオと眼を合わせる。










「マダラオ、●●…?
“鴉”のお前らがなぜ…?」


血だらけの、ボロボロの彼が驚いた様な声と顔で此方を見ている。



この声には聞き覚えがあったし、
その人の顔を忘れた事は一度もなかった。
此処に入ってきた時に既に見付けてはいた。




でももう良いの。





マダラオが何も話さない。
それが全て。
アタシから言う事なんて、何もないんだ。









.



















無事レベル4のアクマも倒す事が出来たエクソシスト二名が先程から暴れ散らしている。
入ってきたドアを破壊しようとイノセンスでもある剣を振り回しているのだが
壊れるどころか傷一つ付いていない。


体力の無駄、という言葉を吐きだしそうになってしまった。

落ち着きのない二名のエクソシストに一瞥し、マダラオの横に並ぶ。
アタシの小さなため息に気付いてしまったのか、
一瞬此方を見た目線に気付いた。







「魔導結界は内からは破れぬ。化学班を待つことだ。」





彼らが有能であればだが、そう説明をしてやったのにも関わらず
アレン・ウォーカーは誰、君ら?なんて馬鹿な事を言ってきた。


その瞬間開かれる扉。
どうやら有能、だったらしい。






マダラオと共にテワクのもとへ行く。
後ろからの視線は感じたけど、
知らないふりをした。




「あとはエクソシストに任せて北米支部に帰還する」





リーバー班長の護衛の任務はコレで終了。
なんてくだらない。




















孤児院を離れ、乗り込んだ列車の中、
被っていた笠を外し、髪を揺らす。

焦げ茶色のソレを指で梳き、そのまま窓から外を見た。



「懐かしい顔を見ましたわ」

「『…』」

「●●、中で話をしまして?」


金色の髪を弾ませながら、話を振ってくるテワクは彼に懐いていたから仕方がないか。
幼かったテワクとキレドリはよく彼の後ろをついて回っていたな、
そんな昔の事を思い出してしまった自分に少し笑えた。




『もう関係の無い人だよ。』

「…そうですわね…」




少し伏せてしまった長い睫毛。
謝罪の意を籠めて軽く頭を撫でた。




もう彼とは違うんだ。

もう昔とは違う。



彼が居なくなってから、マダラオとトクサとゴウシ、四人で話をした。
今まで自分達を守ってくれていた彼はいない。
自分の身は自分で守る。
テワクとキレドリは自分たちで守る。

血の繋がりこそ無いけれど、何年も共に生活し、生きてきた。
可愛い妹達の為に




この胸の中の靄には気付かない事にした。





「●●、無理はするな」

『してないよ』

「お前も大事な妹だ」






腕を組み、目線は合わせないが静かに紡ぐソレ。
テワクに聞こえない小さな声でそう言ってくれたマダラオの気持が嬉しかった。















.












北米支部より黒の教団本部に異動する、そう言われたのは確かおとつい。
便利な物でアレン・ウォーカーの作り上げたゲートのお陰で
あっという間にヨーロッパの其処だ。


レニー支部長と共に挨拶に向かったマダラオとテワク。
少し時間が出来たので教団内を見て回ろうとトクサが提案した。

何処に何があるか、それ位は解っていた方が動きやすいだろう。
用意された部屋を出て、道を部屋を場所を頭の中に入れていく。




「少し静かに歩けないのか、ゴウシ」

「…」




ズンズンと鳴らして歩くソレはすれ違う人すべてが振り返っていた。
まぁ、それ以上に見慣れないアタシ達を窺っている方が多いんだろうけど。




『…無駄に広い』

「わかりにくい構造だな」





そんな事を言いながら鍛錬場の位置を把握した時だった。
ゴウシの腕に飛び込んできた白。



「『!?』」




ソレがアレン・ウォーカーだという事が解った時には
ゴウシの左腕が発動し、彼を柱に吹き飛ばしていた。

ガララという音と共に崩れ落ちるソレ。
頭から血を流し、白いマントに身を包んだアレン・ウォーカーが落ちてきた。



「何している、ゴウシ」

「ち…副作用だ、イノセンスに反応して発動した…!」

『抑え込めるように訓練するんだな』




気を抜くな、そう言えば申し訳なさそうに向けられる瞳。
そんな事で一々発動していたら、此方が困る。
未だに発動したままエクソシストに掌を向けている彼の手を
そっと掴もうとした。










「なんのマネだ、ゴウシ」




怪我をしているアレン・ウォーカーの前に立ち、
彼を守るかの様に此方を睨みつける金色の髪の青年は
先日の護衛任務で見た懐かしい彼。
そしてもう関係のない彼。




「“ハワード・リンク監査官”か」

「発動を解け、ゴウシ」

「着任早々マダラオの説教くう気か」




ゴウシの腕に触れ、向けていた手を下させた。
そのまま左手の発動を止めさせ、装束の中に手を戻す。

眼の前の人物を確認した三人には先日の事はマダラオが報告した。

キレドリは少し寂しそうな顔をして、
その日はテワクと二人大人しかった。








ワラワラと集まる人だかり。
面倒な事になった。
小さくため息を吐き、此方を睨みつけるハワード・リンク監査官に背を向ける。



「失礼しました、アレン・ウォーカー」



トクサがゴウシの前に出、キレドリ、ゴウシもトクサの向く方へ視線を送る。


―――溜息ばかり出るな。



そう自嘲気味に首に手を当て、同じく彼らエクソシスト達に身体を向けた。




「半アクマ化した者ゆえ、イノセンスを受け付けぬのです。
何卒ご容赦を」

「半…アクマ化だと!?」

『行くよ』




三人に声をかけ、鍛錬場を後にする。
説明した所で何も変わらない。
もうどうしようもないんだ。


















「待て!!●●…!!!」


「アレン・ウォーカーから離れて良いのですか?」





追いかけてくる彼に振り返る事はしない。
キレドリが代わりに答えてくれた。

装束の中で握った手が少しだけ、痛いんだ。




「●●!!」

「しつこいですね…」

『…良い、先行って』




それでも尚、アタシの名前を呼び、肩に手をかけ振り返らせようとする
ハワード監査官にトクサが抑制の声をかけたが
彼の肩に手を置き、先に行くよう促した。

此方を気にはしていたが、二人を連れて出ていく。
暫くそのまま彼との距離は変わらなかったが、
三人の姿が見えなくなった時。
両腕を掴まれ、無理矢理、という言葉がぴったり合う位の力で目を合わされる。

少し焦りの色が見える目が昔と変わらず自分達を心配してくれているソレだったのに少し驚いた。





置いて、行ったくせに。
この身体にしたくせに。






「どう、言う事だ」

『何も。』




何も言う事等ない。
彼に言っても仕方ないんだ。

生きる為に選んだのは、自分。















不意に、温かいものに包まれた。

抱きしめられている、そう理解したのは少し後。
肩が少し濡れた。
自分のではなく、彼が零したもので濡れた。



『っ!!離して!!』

「●●っ!!」





振り払おうと思ったのに。
いくつ年を取っても、勝てないんだね。












力いっぱい抱きしめられた身体は痛い筈なのに。
振り払おうと手に力を籠めたのに。
もう二度と、交わる事のない人だと思ったのに。


アタシの名前を呼ぶその声。

アタシを抱きしめるその腕。

アタシを見つめるその眼。





全てが愛おしい。









『お放し下さい、“ハワード・リンク監査官”』

「…もうその名前でしか呼んでくれないのか?」

『…、もう行かなくては。』






そう言って彼の腕を優しく払った。




『失礼致します』



一礼をし、彼に背を向け、歩き出す。
コレで良いのだ。
これ以上あの腕の中にいると靄が暴れ出す。

これ以上向き合えば、戦えなくなる。



「すまない…」








その言葉と先程の涙。
その二つで十分だ。







振り返る事はしない。

戦場で共に戦えるのなら、
今度はアタシが貴方を守ろう。
不思議と靄が背中を押してくれる。




振り返る事は、しない。

前だけを見つめた。














End
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□あとがき□


リンクとサードの悲恋的な。

追記すると彼女はサードになった事を恨んでたんですが、
リンクに対する気持ちを受け入れたことで、
守れる身体になった事が結果的に少し嬉しいんです。

強くあろうとするヒロインを目指しました。

ソレを上手く表現出来ず…



年的に
マダラオ・リンク>トクサ・ヒロイン>>>キレドリ・テワク
と言う感じ?
ゴウシの年齢は不詳ですが。。。



最後までお付き合い有難うございました。



20110816

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