▼宝物を探しに 小雨が降り注ぐ、ある昼下がり。 お互い非番だった●●と二人、 ジョニーから借りたチェスをして過ごしていた。 因みに11勝26敗と言う芳しくない勝率だ。 彼女が摘まんだポールの駒が、盤の上を彷徨う。 オレはと言うと、次は何処に攻められるのだろうと 少しヒヤヒヤしながらじっとソレを見つめていた。 『ねぇ、ラビー…』 「ん?何さ?」 次の一手を中々決めない●●の顔を見ると、 狙いを定める気も無いようだ。 片手で頬杖を付き、談話室の窓から外を見て、 呟くように名前を呼ばれた。 集中力が切れてしまったのだろうか。 藍色の綺麗な眼はずっと外を眺めている。 地上を濡らしていた雨はもう少しで止みそうだった。 『虹の麓に宝物がある、って知ってる?』 「…カール・ブッセさ?」 『そんなんじゃないよ。もっと、』 もっと、ソレに続く言葉は窓の外へ消える。 彼方を見据える長い睫毛の大きな眼の理由は、 切ない詩のソレでは無さそうだ。 手にしていた白いポールは机の上に置き去りにし、 カタンと音を鳴らし窓際へ。 格子窓に手を添え、窓を開けた。 外は雨が上がり、清んだ空気が広がっている。 虹が、出ていた。 前に一度、リナリーから聞いたことがある。 彼女もこの黒の教団から幾度となく逃げ出した事がある、という過去を。 理由は解らない。 誰ひとりとしてその理由を聞いた者はいないし、 彼女も話そうとしなかった。 教団に連れて来られて3年ほど、逃げ出しては連れ戻され、監禁され、を繰り返すうちに 諦めたのか13歳の頃からは大人しく此処にいるらしい。 そんな彼女だ。 掴む事の出来ない幸せの話なんじゃないか、そう思った。 『アタシね、今は逃げたいなんて気、起こらなくなったんだよ』 リナリーよりもひとつ年下の彼女がやけに大人びた目で此方を見る。 大きな眼が細められ、小さく笑う●●は少し儚く思えた。 胸が締め付けられる気がした。 『ブックマン後継者なら、その宝物気になるんじゃないかって思ったんだけどなぁ!』 「…へ!?」 『ノリ、悪いよぉ、ラビ!』 再度虹に向けられた眼は先程感じた儚さの欠片もなく、 どちらかと言えばワクワク?と言った興味の眼で見ていた。 少し薄くなっている虹を指さし、この方向によく出るんだよ! なんて張り切った声を出すあたりまだ15歳か。 「フハ、」 『なにーラビ、やらしい笑い方!』 漏れてしまった笑い声に此方を振りむく●●。 その小さな肩に腕をまわし、少し此方へ寄せる。 らび、へんたい!と顔を真っ赤にした彼女から、彼方に目を移した。 「今度、虹が出たらさ、」 今はもう消えてしまったソレが今度現れたら。 二人でサンドウィッチでも持って麓まで探検でもしようか。 そう耳元で呟けば、 小さく頷く真っ赤な顔耳に愛しさが募った。 End . □あとがき□ 実はラビが大好きなヒロインでした。 ラビもヒロインの事が可愛くて仕方ない感じにしたかったのです! チェスでは惨敗ですが(笑) 最後までお付き合いありがとうございました。 20110813 . ←一覧へ |