▼依存にも似た想い1













『…消毒、しなきゃ、』




満月ではない、薄暗い月明かりで自分の腕にある無数の傷と
ソレに巻かれたボロボロの包帯。
鼻の奥がツンとし、目頭が熱くなる。




息が整わない。




先日婦長に消毒をしなさいと怒られたばかりだが、
何よりも一人になりたくて。
滅多に人が通らないフロアの階段下のスペースに身を滑り込ませ、
寒くもないのに二の腕を抱きしめ、膝を抱えた。











アタシのイのセンスは背中にある。

発動すると同時に足元から上昇気流を生む。
ソレを操れば、敵を切り刻めるし、空中に浮く事も可能だ。

上手く操れれば、の話。



イノセンスとの最高シンクロ率は38%。
体調が悪ければ軽く20を割る。







適応してから数年が経つが一向に安定しないシンクロ率と、
四大元素を操る能力が貴重なため、実験と鍛練の毎日。

何よりシンクロ率が低いと大きな力だけが暴走し出し、自身に傷を生む為、
コントロールが出来るようになる訓練、が主なのだが。

安定しない数値ではろくに発動出来ず、風を操れた回数は片手で事足りる。
消える事のない身体中の傷は日に日に増えて常に血が滲んでいた。



任務には行きたくないが、
誰も救えていない現状が酷く焦燥感に駆られていた。













「…●●、ここにいたのか。」








静寂を切り裂くテノール。

眼を向ければ、片手に器用に包帯や消毒液を持ち、
小さなため息と共に近付いて来る影。

アタシが逃げ出すといつも探し当て、
手当てをし、側に居てくれる人物だ。




目の前に腰を下ろし解け掛けたソレを取り替えようと足首を掴む彼に
縋るような眼と抑制の手を伸ばせば、涙が零れ落ちた。








『!ユウっ…』

「…痛ェのか?」

『…っ』





少しだけ柔らかな声に首を横に振る。
痛くないわけではない。

所詮強がりだ。












団員達から畏怖の念を抱かれている神田。

言葉数が少なく、配慮の欠片もない彼とはコミュニケーションが取りにくい。
更に不機嫌モードになってしまえば、
イノセンスでもある愛刀を抜き、切り刻むぞと言わんばかりの殺気を向けられる。
彼は慣れ合いなど求めてはいない。

しかし根は、本当はすごく優しいのだ。
厳しく接するのには理由がある。
ただそれだけ。














血が滲み、解けかけている汚れた包帯を外し、
婦長から預かったのであろう消毒液を
太股に走る出来たばかりの大きな傷にかける。
傷に滲みて激痛が走った為、神田の手を思いっきり掴んでしまった。







『ごめっ…ユウ、』

「痛くねェよ。」










毎日怪我をする度にソレをかけられるが、この痛みには慣れない。
浅く息を繰り返しながら綺麗に包帯を変えてくれる彼の手を見てた。
冷えた指がひどく心地良い。

そうぼんやりと眺めていると、
不意に抱き寄せられ、顔が彼の肩に当たる。

そのまま顔を埋めると、
呼吸がちゃんと出来た気がした。














「部屋、行くか?」

『ゃ、いい、此処が良い』









再度ぎゅっと力を込めて抱き付いた。







唯一、落ち着けるアタシの安定剤。








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