▼秋桜










「探した、●●」



小雨が地面を濡らす午後二時。

昼間だと言うのに空は泣き出した様に不機嫌で、
灰色の厚い雲が一面に敷き詰められていた。





早乙女学園に通う為、地元を離れて五ヶ月と二週間程。

夏休みにも帰省したが、九月末の連休を利用して、
上京してから何度目かの地元に足を運んだ。




『オカエリ、真斗。』


「●●、」





此方に戻る度、顔を見に行く人物が
目の前でベンチに不貞腐れている●●。

家の近くにある緑と咲き出した秋桜の花に囲まれた、大きめの公園の一角、
数本の柱が支える木製の屋根の下、小さな肩を見つけた。










彼女は何か嫌な事があればいつも此処に逃げ込んで、
俺が迎えに行かない限り動かない。



五歳の夏、父親が渡米に出発する朝も、
六歳の秋、両親に連れられてパーティーに出席する日も、
俺とクラスが離れた小学校三年生の春も。
一番最近では俺が早乙女学園に入学する為地元を離れると告げた翌日か。





毎度の迎えが俺の役割なのは昔から知った仲であり、
お互い唯一無二の存在になっているから。
そう自負している。




明日からまた授業が始まるので早めの新幹線で帰る為、
最後に顔を見に行けば、“朝から姿が見えない”と使用人に言われ。
またか、と公園に足を運べば
やはり、と簡単に見つける事が出来た、その姿。












「濡れてまで此処に来るような事か?
もう五ヶ月も経っただろう。」






藍色の傘を畳み、隣に座り込む。
どうせこんな事だろうと持ってきたタオルを彼女の頭に乗せて水滴を取った。




『だって…』




タオルで出来た影から覗く瞳が揺れる。
少し伏せられたソレの長い睫毛が目についた。



「●●」



ゆっくりと視線を上げて、上目になったソレと視線がかち合えば
ふっくらとしたピンク色の唇が僅かに動く。





『まさと、が、居なきゃヤだ…。』




頭部に置いていたタオルを●●の首元に滑らせ、
その端を引き寄せる。

軽くコツンと額と額を合わせれば、至近距離で見上げられる。

鼻の先が擦り合いそうな位近く。




「●●」

『っ、』





息をグッと飲み込むのが伺えた。






胸元まで綺麗に伸ばされた漆黒の髪を軽く梳きながら、
頬を隠すソレを耳にかけてやるとピクンと肩を揺らす。

俺の手首にゆっくりと添わす細い指に自分の指を絡ませた。




「●●、一緒に来い。」

『…え?』

「御両親には既に了承を得ている。」




絡めた指を引き寄せて、背に口付けた。






そう。


四月から地元を離れてから、いや、離れる前から考えていた。



▲▲財閥は聖川と共同経営している事業があるため、
親同士交流も多く、同じ学校に通い、何処に行くにも行動を共にしていた。



将来は、等と親達が会話しているのは中等部の頃に耳にした。


そんな事聞くまでもなく。
ソレ迄もソレ以後も、自分達はずっと一緒にいる。
そう思っていた。





その●●が居ない生活が五ヶ月。






“真斗が、居なきゃヤだ。”



そう呟いた彼女は自分と同じ気持ちだった事。

心底嬉しかった。







『良い、の?』

「あぁ、時期が早まっただけだ。」





ふ、と緩む口許と自然と細くなる目。
ソレに合わせて同じ様に緩む●●の口許。










ふわりと浮かべる彼女の笑顔が。



『真斗、』



そう鈴が鳴るかの様に呼ぶ●●の声が。



引き寄せた折れそうな位細い腰が。



絡めている白い指が、手が。



柔かなピンク色の唇が。



真っ直ぐに向けてくる大きな瞳が。





「好きだ」







嬉しそうに笑う●●。

そっと口付けたキスは、秋桜の香りがした。








(いつもいつまでも一緒)


end


20110927




書き上げる順番間違えた。
連休明けに書き上げた、連休の話…。

おでこコツンから指ちゅうまでが書きたかっただけ。

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