▼熱に魘されても君が好き。










『大丈夫、トキヤ?』





ダルい身体を動かして、インターホンの鳴る玄関へと近づくと同時に開かれたドア。

合鍵を渡している人間は数少ない。





あまり機能しない熱い頭を動かして、
開かれたソコに目をやれば。

逢いたくて、逢いたくて、逢いたくなかった人。




「え、●●、今日は…」

『ご飯、何か食べた?』



ドアが閉まると同時にカツンとヒールの音をたてて脱ぎ捨てられた、リボンが付いた靴。

●●の赤茶色の髪とよく合う、赤チェックのソレ。


踵の部分を持って両足を揃えて一段下になった所に並べ、
つかつかと部屋に入っていった彼女の後を追う。




「あ、はい。レトルトですがお粥を。」

『そ、なら林檎剥くわ。食べるでしょ?』



手に持っていた近所のスーパーの袋から赤く艶やかな林檎が取り出された。


腕捲りをし、シンクで手を洗ってから、
勝手知ったる、と言うかのようにナイフをシンクの下から取り出し、
軽く洗った林檎をするすると剥いていく。




器用に動く細い指に声をかけた。




「●●、今日は風邪を引いたから来なくて良いと電話をした筈です。」

『ええ、そうね。』



戸棚から出された白磁の食器。
その上に器用に兎の形に剥かれ、並べられていく林檎達。



「●●、」



●●の手首を軽く掴む。


細い、折れそうな、手首。





暫く掴んだ腕の細さに何処かへ持っていかれていた思考を醒ますように、
そっと触れて来た●●の指は少し冷たくて。

熱のせいで身体中を回る熱が少し浄化された気がした。



「…トキヤだにゃとか口走っちゃいますよ。」

『あら、ソレは見物ね!』



あまり好きではないと溢していたHAYATOの口調を小さく呟けば、
コロコロと鈴が鳴るように笑う●●。




「じゃなくて、」

『あんな電話、来て欲しいって言ってるようにしか聞こえなかった!…違う、トキヤ?』

「…っ、」

『こんな殺風景な部屋に住んでるから寂しくなるのよ。』




冷たい水で冷やされた手で額を撫で、
そのまま頬を包みこむ様に触れられれば、
冷えていく肌とは反して風邪のせいではない熱が浸食し出す。



頭が、脳が、熱い。




「…お見通しってわけですか。」



頬にある自分よりも小さな手に、自分のソレを重ねて、
頭ひとつ分小さな●●を引き寄せた。



『当たり前じゃない!』




そう言って優しく微笑んだ彼女の笑顔は眩しくて。


自分で引き寄せたくせに、
真っ直ぐ見つめ返された大きな眼を直視出来ず、
身体を逸らしながら、熱が籠り緩む口許を右手で隠した。




『はい、林檎』



差し出された白磁の皿に載るソレをフォークで刺して。


差し出された林檎を熱い頬と一緒に咀嚼するしかできなかった。




『美味しい?』


「…はい。」






いつだって●●には勝てない。




守るつもりが守られている。



情けない。



それでいて、幸せだ。






(自分よりも自分の事を理解している、彼女が愛おしい。)


end


20110926


弱気すぎるトキヤ

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