▼LOVE for YOU









好きな香り。
と言えば、ソレらはたくさんあげられる。



例えば食べ物の香り。
特に炊きたてのほくほくした白ご飯、スパイシーなカレー、焼きたてのパン。
食欲をそそる焼き肉の香りだって好きだ。

他には太陽の光りをいっぱい浴びてふっかふかになった布団の香りや、晴れた日の芝生に寝転んだ時に匂う草花の香り。
あとは石鹸の爽やかな香りとか、秋に咲く金木犀の甘ったるい香りも。


鼻腔にそれらを吸い込めば、ぽかぽかと暖かな気持ちでいっぱいになる。






『…ぅ、…〜、』



そのどれよりも大好きで愛おしいと思うのが隣で寝息をたてている●●の香り。
●●は香水をつけないし、香料のきつい化粧品の類いも苦手らしい。

だけど彼女が放つ香りの甘さは例えようがない程、オレの心を擽る。



腕の中ですやすやと繰り返される穏やかな呼吸。
起こさないようにゆっくりと、そっと身体を動かして、栗色の髪にキスを落とす。

本人は嫌いだと言っていたけれど、オレからすれば●●の可愛さを引き立てる要因の1つだと思っている癖っ毛の、その柔らかな髪に鼻を埋め、香りを楽しむ。

甘い甘いお砂糖のような。
そしてシャンプーと石鹸と。
あと干したての布団からの太陽の香りが混ざり合って。

腕に掛かる確かな重みと共に、オレを幸せへと運んでいく。



「●●」



小さく、とても小さく。
彼女の名前を呟いて、その幸せを噛みしめた。


聞き取れない小さな聲で寝言を言う姿だって、時々猫のように目元を擦る仕種だって、寝返りを打つと同時に無意識に抱き付いてくる事だって、可愛くて仕方がない。

いつだって隣にいてくれる●●。
その事を思い知れば知る程、込み上げてくる“好き”に泣きたくなる。



そっと身体を離して、消し忘れた電球のオレンジ色を含んだ蛍光灯の光に透かしながら指で栗毛を梳いてみた。
するすると縺れる事無く、それでいて名残惜しそうにゆっくりと指の上を滑る。
それは本人の意図かもしれないし、もしかしたらそうじゃないかもしれない。
何万本と言う●●の髪の毛先まで、オレから離れるのを躊躇って、名残惜しんでいけばいいのに。
なんて、ちょっとバカな事だとは思ったけど。
そうだと良いな、とも思った。



「ホント綺麗な髪だなぁ。」



手入れの行き届いたその髪は、癖が出ないようにと試行錯誤をしているせいか。
昨日も新しいヘアパックを買ったと言っていたし、風呂に入ればコンディショナーに時間をかけて。
ドライヤーだってスカルプ機能のある良い物を使っている。
朝もちょっと早く起きて鏡の前に座り、これまた髪が縺れないとかなんとか口コミで良いと言われているブラシで梳いていた。

日中は広がらない為だと纏めていることの多い●●の髪が、今は白いシーツの上に広がって、綺麗なドレープを描いている。

頭頂部には、天使の輪が見えた。




そうしているうちに名残惜しそうにしているのは●●の髪じゃなくて、自分の指だというのがわかった。
何度も何度も彼女に触れたいと離れては触れ、離れては触れ。

自分の指の先まで●●の事を想っているようで。



「好き。」



好き。
すき。すき。
超好き。
何回言っても何回伝えても足りないくらい、●●が好きだ。



『…うん。』

「っ、え!?起きてたの!?」

『う、ん。起きた…。』



“だって音也、ずっと触れていたでしょ?”
目線が合わないようにオレの腕の中に擦り寄ったまま、くぐもった聲で言う。
身体を離そうとすれば、ソレを追うように、腰に抱き着いて。



「…ちょっと、●●、」

『やだ』

「…顔、見たいんだけど。」

『絶対やだ』



ぎゅうぅって強い力を籠めて、ぐりぐりって腰に顔を埋めて。
そしてもごもごと布団と服越しに呟く言葉。
“何、何?”って聞けば、“何でもない”って拗ねてしまった。

そんなそぶりが可愛くて、抱き着いてくる●●の背中に手を回して。
微かに見える真っ赤に染まった耳が愛しくて。



「ほんっと、大好き。」



腕の中で小さく小さく#名前が#、“知ってる”って呟いた。





(大好きな君と、これ以上ない幸せを抱き締めて眠ろう)

End

20120813

音也夢でした。
ちょっと前に書いていたものなので終わり方が迷子気味だったのですが、こういうあっさりとした終わり方の方が合うかなと。
と言うか短ければ短い程物足りないし、長ければ長い程説明が多いような気がして、
一番いい書き方を早く見つけたいです。



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