▼new year








『明けましておめでとう、真斗』



家の前につけられた外車の中から降りてきた●●に手を差し出して、彼女が車から降りるのをエスコート。

そっと白く小さな手を添えて、潜る様にドアから降りる。

お腹辺りで軽く両手を重ね、新年の挨拶と共にペコリとお辞儀する姿は、毎年の事ながら可愛らしいと思う。



「あぁ、明けましておめでとう」



カラコロと可愛い音をたてながら俺の脇をすり抜けて、聖川の門を潜る●●と年始の挨拶を交わすのももう何年目だろうか。

神宮寺家同様、敵対する財閥として睨みあっていた事も勿論有った。
所謂、三つ巴状態だった。
それももう何年か前に友好関係を築き、今や新年から集まって盃を酌み交わす仲だ。

持ち掛けたのは神宮寺家で、▲▲家は二つ返事だった。
こんな関係に飽き飽きしていたのだろう。
渋っていた聖川家も最後には共同事業に乗り出す事を決意した。
正直、よくあの厳格な父が踏み切ったなと思った。

同じ学園で学び、アイドルを目指し、共に生活をした三人だ。
慣れ合うな、と言われて距離を置いてはいたものの、やはり情は湧くし、距離が縮まるのに時間はかからなかった。
今のこの平和な状況が有難い。



『お父様は少し遅れるって。おじさまは?レンはもう来てる?』



前からお気に入りだと言っていた緋の振り袖。
豪華な模様が全体に施され、とても華やかだ。
そしてソレに合わせたように誂えた緋と金の髪飾りがきっちりと結い上げられた黒髪にはえている。



「あまりはしゃぐな。転んでも知らんぞ」



大丈夫だよと言いながら、玄関まで続く敷石の上を楽しそうに歩く。
手入れが行き届いた庭の木に積もる白雪に、池に張った氷に、じいが置いた門松にさえ興味を示し、華が咲く様な笑顔を浮かべる●●。


同い年だと言うのに、目が離せない。
その理由が妹の様に思っていたからだと信じて疑わなかった。
それ以外に何がある。



『きゃっ、』

「●●!」



霜の降りた敷石に滑ったのか、バランスを崩して傾く身体に駆け寄って、受け止める。



「だから言っただろう」

『だって、』



小さな肩に腕を回し体勢を整えさせさせれば、至近距離に黒眼を縁取る長い睫毛とと膨れた頬が目に入った。

●●の前にしゃがみ込み、脱げてしまった下駄を履かせる。
バランスを保つために、手が軽く肩に添えられた。

真衣が居る所為か。
●●の面倒を見る事は決して苦ではない。

傾いた身体を受け止めてやる事も、脱げた下駄を履かせてやる事も、気を付けろと手を引く事も、苦ではない。
至極自然な事だ。



『…真斗?』



だから、●●のこんな顔なんて知らなかった。
知ろうとしていなかった。
自分の中の彼女よりもずっと大人びた、艶やかな真っすぐな目。
キュッと握りしめられた手を改めて感じる事も無かった。



自分の中で何かが変わる音がした。



今年は違う関係を築いていきたい。

そう言えば君は変わらず笑ってくれるだろうか。

いま、一歩。
踏み出すのに後押しするのには良い日だ。



「●●、」






(伝えたい事があるんだ、とても大事な事)

end

20120101



新年明けましておめでとうございます。
一発目、何を上げるか迷った末、着物が似合う聖川に。
ホントは黒の教団ver.も考えてはいたけど時間がいかんせん無くて。
新年早々更新の割に最後まで書かずに終わると言う…。
ちゃんと出すつもりだったのに名前だけで終わってしまった神宮寺、大変申し訳ない。
文章の書き方を研究するつもりで文庫を読みあされば、短編の終わり方が迷子になって行く。
こんな私ではありますが、今年も何とぞ宜しくお願いいたします。



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