▼夜に恋した鳥の詩











『真斗君、新しい曲が出来たの。
今、聞いてくれる?』





授業が終わり、教室に残っている生徒は僅か。

そのメンバーも日頃聖川真斗が連んでいる面々で、
アタシの聲に一十木音也達が振り向いた。





「●●、帰ったと思ってたよ!」

『ちょっとレッスンルームにね』




午前の授業中に良いフレーズが思い浮かび、
先日から書き始めた曲を完成させる為に
ピアノを引き続けた。



漸く出来上がった曲を聞いてもらわずには居られなくて。

終業を告げるベルが鳴ると共にレッスンルームを飛び出した。




眉を顰めて目線を此方に向けるだけで一言も話さない彼に数枚の楽譜を渡し、
教室の端に置かれたグランドピアノの前に腰かける。




『…聖川君みたいに上手くないけど、
イメージ掴み易い様に仮歌詞付けたから』




静かに紙を捲る彼の指を見つめながら、
白と黒の鍵盤を叩く。


スローテンポのバラード。
和音が重なりハーモニーを生む。


詩を歌うのは好きだけど、
お世辞でも上手いとは言えないレベルだと思う。
アイドルコースの足元には到底及ばない。



それでも絞り出す様に
彼に届けと願って、歌う。







「っ、やめろ、…そんな、」



ピアノの音を遮る様に
バンと机を強く叩き、
真斗君が席から立ち上がる。




“そんな告白の様な詩は、歌えない”




真斗君の聲に
ピアノを弾く手を止めた。




「まさやん?」




急に立ち上がった真斗君に、
近くにいた友千香が聲をかける。

そんなに彼女の聲は届いていないのか
小さくやめてくれ、と何度も呟いた。





『…“様な”じゃないよ。
アタシの持ってる全てを込めたの。』





歌にせずには、
伝えずには居られなかった。




「っ、」

「マサ!?」




楽譜を握りしめて教室を飛び出す真斗君。
音也が名前を呼んでも、振り向きもしない。

遠ざかる靴音に小さく息を吐いた。





「追わないんですか?」

『…追うつもりはないの』




駆け寄ってきた同じ作曲家コースの春歌の言葉に
少しだけ自嘲含んで返した。





追うつもりは全く無い。

ただ、
吐き出さずには居られなくて。

無理矢理押し付けた想い。





彼の境遇は解ってる。



先日彼の執事と話してるのを聞いた。
婚約者が居るのだと。


それでもアタシの歌を
丁寧に大切に歌う彼に募る気持ちは抑えられなかったのだ。


ただのパートナーになろうと、
サヨナラと言い合ったのに。





「●●ちゃん、良ければ最後まで聞かせてもらえませんか?」

『…うん』





那月の聲に再度鍵盤に手を乗せて、
撫でる様にソレを鳴らした。





群青色の夜空に恋をした小さな鳥の詩。

決してその腕に抱かれる様に
夜空を飛ぶ事は叶わない。

木の枝から輝く星と月を見上げ、
朝が来るのを待つしかない。


絶対に交わらない運命。



アタシ達も同じ。





もう二度と彼がアタシに触れる事も
アタシの名前を愛おしげに囁く事も
二人で笑い合う事さえも無いのだ。





「綺麗な曲、ですね」






春歌が静かに呟いた。







(サヨナラの後に贈る詩)

end

20111205



ずっと書いてる話が中々終われそうにないので突発的に書いた小話的な?
でも終わり方と言うか内容が迷子…。
一時間位で勢いだけで書いたものなので微妙。

聖川のパートナーで両想いなのに叶わないと解ったヒロインの足掻きが書きたかったのですが…。

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