▼シンフォニエッタ












神宮寺家三男の俺がこの家を継げる可能性は、
微塵も無い。




そんな現実が恨めしく、嫡男と言う立場に産まれた聖川に苛立ちを覚えた日は少なくない。




この家から不必要だと言われているような俺が広告塔としてアイドルになるように
早乙女学園に入学させられた時は、
行き場の無い虚無感に襲われた。




都合の良い時だけ、俺と言う存在を利用するのか。



課題も何もやる気が起きず、
神宮寺と言う家柄で寄ってきた女子達と
何も考えずに戯れる日々。


そんな灰色の毎日。








「今度の週末、▲▲家と会食だからな」







そんな電話を受け取ったのは、
授業をサボって屋上でサックスを吹いていた時だった。






▲▲家とは俺が10歳になった頃、婚約を決められた。

こう言う事だけにしか利用価値はない。

ソレは幼い頃から重々解ってはいた。








それでもやりきれない気持ちに
徐々に近付く待ち合わせの時間にいたたまれず、
兄の目を盗んで逃げ出した。






小綺麗なスーツにきっちりと結われたネクタイ。

息苦しさを感じて緩めれば、
大きく吐き出される溜め息。




澄みきった秋晴れの空。
ゆっくりと流れていく雲を見上げ、
近くに合った植木の煉瓦に腰を下ろす。

綿菓子みたいに白く淡い雲をただ眼で追った。






『久し振り、レン』

「…やぁ、●●。久し振りだね」






見知った聲に振り向けば、
幾重にも重ねられたピンク色のシフォンのミニドレスに身を包んだ●●の姿。

腕を組んで此方に足を進める度、
彼女の栗色の髪が跳ねる。




『ご機嫌は如何?』

「…最悪、かな」




いつもの癖で自分の橙色の髪を掻く。

ストンと隣に腰掛ける●●から無意識に眼を逸らした。





『ソレは奇遇ね、アタシもよ』




“会食する筈の婚約者様が来なくって”

溜め息を付きながら発した●●の聲。



二つ年下の彼女とは幼い頃から家族ぐるみで交流があった所為もあり、
妹の様に可愛がっていた。





「…悪いね」

『悪いと思ってない癖に』





少し尖らせた唇と前後にぷらぷらと揺れる足。

拗ねる様な仕種をとる●●の髪を軽くくしゃっと撫でる。




「ゴメンよ、レディ」




その言葉に機嫌を良くしたのか
俺の手に猫の様に擦り寄りながら、
クスクスと漏れる聲は数年前に逢った時と変わらず悪戯に笑う。

少し伸びた髪が妹と思っていた●●を大人びて見せた。






『レンはアタシと結婚するの、嫌?』






●●の細く小さな指が髪を梳いていた手に絡まる。

きゅっと力が込めて両手で包み込まれたソレが
彼女の顔を隠すように固定された。







「そんな事、」






そんな事有る筈が、無い。






幼心に守りたいと、愛でていた存在。

手に入るのならばソレは本望だ。



思い通りになら無い自分に、
ホンの少しの反抗心。

ただソレだけ。






微かに伝わる震え。


自分のこのくだらない行動は●●を傷付けるには十分過ぎる事だったんだ。





「●●」





触れたままの指を絡めとり、
そのまま此方へ引き寄せる。


両手で強く●●の身体を抱き締めれば
丸みを帯びて女性へと成長し出している小さな肩が
すっぽりと腕に収まった。


肩口に埋もれる彼女の顔。
柔らかな栗色に再度、指を通した。





『レン』

「●●、好きだよ」





世界が灰色だと思い込んでいたのはちょっとした反抗心で、
共に歩む運命の君はソレを極彩色に染め上げる存在なのだ。




背中に回された細い腕をずっと。


守り続けたいと秋の空に誓った。





(好きだよ、ずっと昔から)

end

20111127



ゲームをしたらレンが物凄くカッコ良く見えました。

が、アニメ設定の広告塔を使いました。

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