▼ある日常の出来事












「で?なんで●●は那月と二人で飯食ってんだよ」

『…なんで怒ってるわけ?』




午前の授業の終了を告げるベルから数十分。

お腹を空かせた生徒で賑わう食堂の一角に置かれた小さなテーブルに
先程買ったサンドイッチとカフェラテ。


同じものをチョイスしたクラスメイトの四ノ宮那月と
ランチにありついたところだった。




「怒ってねぇし」

『怒ってんじゃん』

「うるせぇ、」

『なら向こう行けば良いじゃん』




アタシの向かい、那月の隣にドカッと座り込んだ生徒は、Sクラスの来栖翔。



「●●、苛々すんなよな、」




大きくつかれた溜め息に脳内にチカチカと血がのぼる。




『…ソレは翔ちゃんでしょ。
カルシウム足りないなら牛乳飲めば?
身長も伸びるんじゃない?』





目の前のサンドイッチを咀嚼しながら、
鼻で笑うように翔ちゃんに吐いた。


この言葉に彼の苛立ちが増す事も、
自分の体温がどんどん上昇していく事も
全てわかっていた。


それでいて引く事が出来ないアタシは
自分でも可愛くない性格だと思う。



「お前なぁ!」



身を乗り出して眉間にシワを寄せている翔ちゃんと、
バンと音をたてるテーブルを他人事のように見ていた。




『何よ、先に突っ掛かって来たのは翔ちゃんじゃん』




こう言う時程、すらすらと言葉を紡ぐ唇を、
空気を震わして彼の耳に届く言葉を恨めしく思う事はない。



ソレ程、素直になれない。

お互いに、だ。




『翔ちゃんなんて…、』




思わず出た聲に息を飲む翔ちゃんが見える。



ダメだ。
これ以上は。


喉まで出てきた“ダイキライ”
そんなの嘘に決まってる。

嚥下するまでの数秒がとても長く感じた。












「翔ちゃんも●●ちゃんもかわいいです〜!!!」




ガバッと音が聞こえた瞬間、
大きく広げられた腕が小さなテーブル越しに睨み合っているアタシと翔ちゃんを包み込むと
額に走る激しい衝撃。




『痛っっ!!!!』

「那月!テメェ!!」




生理的に零れそうな涙を堪え、掌を額に当てる。
先程とは違う、ジンジンとした熱が頭を刺激した。




『ホントに急に止めてよ、なっちゃん!』

「だってー」

「だって、じゃねぇよ。」




なっちゃんに抱き付かれる事は、アタシも翔ちゃんも日常茶飯事。

お互い慣れっこだ。


しかし天然とも言えるなっちゃんの行動は全く読めず、
何かしらのハプニングも、その“日常茶飯事”に含まれている。






その日常茶飯事に、はぁぁ、と大袈裟についた溜め息が重なる。
ソレは同じく被害に合った翔ちゃんのモノ。

さっきまでの靄が今の溜め息に乗せられて
晴れた空へと溶け込んだ様に
胸の中は何故かスッキリしていて。





ソレは翔ちゃんも同じなのか、眉間に寄せていたシワは消え去って
いつものクリクリとした眼をアタシに向けた。



「笑ってんなよ、●●」

『翔ちゃんもね』




なんて。
目が合えばどちらともなく、ふ、と漏れる聲と共に上がる広角。





「やぁっぱり二人とも可愛いです」




テーブルの上で頬杖をつき、
ニコニコとお花を飛ばす勢いで嬉しそうに笑うなっちゃん。
そんな彼に握った拳を軽く当てている翔ちゃん。



そんな二人を先程比べ物になら無い位、
穏やかな気持ちで眺めた。





ジンジンと痛みは治まらないし、
向かいに座る翔ちゃんの額が赤く染まっている辺りアタシのソレも同様だと思う。



ソレでも翔ちゃんに言わずに済んだ“ダイキライ”は
彼のくれた日常茶飯事とハプニングのお陰だ。




二人に聞こえないように“ありがと”と呟いた。





(いつか伝えたい“ダイスキ”)

end

20111117




勿論伝えたいのは翔ちゃんにと言い張る。

アンケートリクエストの“翔ちゃんと逆ギレ口論”でしたが、
実は逆ギレした事も無ければされた事もなく。
口論にもほぼならないので、リクエストに答えられているかさっぱりです…。

そのせいで解決?の仕方が迷子…。

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