▼深夜の密会











零れ落ちそうな満天の星空を見上げ、
少し肌寒くなった外気を吸い込んだ。






胸に充満する澄んだ空気は神経を研ぎ澄ませるかの様に脳内を刺激し、
日付をとうに跨いだ時間だと言うのに意識を醒まさせる。




キラキラと輝く星がとても綺麗で。
眠ってなんていられなくて。
同室の子を起こさないように部屋を出た。



ストール一枚をぐるぐる巻きにしてもまだ肌寒さからは逃れられない秋風が頬を刺す。

それでも戻ろうなんて気にもならなかった。









はぁ、と一息吐きながら頭上に君臨する月明かりを抱き締めるように手を伸ばす。


手を伸ばせば掴めそうな錯覚を起こす、遥か彼方の星達。


何億光年の時間を経てアタシの目に写るそれらは、
今はもう存在しないのかもしれない。

なんて儚くて耽美的。



そのままゆっくりと、地面に広がる芝生に背を預けた。









ぽすり。

背中に感じる筈の感触は思ってもみなかったモノに包まれて、
甘い甘い香りが鼻孔を擽る。

いつの間にか背後に座り込んでいた彼は大事な大事な人。





「頭を打ったらどうする気だ、●●」






アタシの身体を受け止めた聖川君が放つ香りは特段甘い。

彼の好物でもあるメロンパンを毎日食べているせいで
どこもかしこも糖分で構成されているんじゃないかと思う。





『こんばんは、聖川君』




そのまま身体を預ければ、お腹の前で聖川君の両掌が合わされて。

背中の温もりを感じる様に、ゆっくりと瞳を閉じた。




「そんな格好だと風邪を引くだろう」

『でも今は暖かくなったよ。』




女性かと間違えるほど華奢なくせに、
秋風からアタシの身体を遮るように力強く抱き締めている。
聖川君の下ろし立てのウールのニットが先程と比べ物にならない位とても暖かい。


トップの上質なグレーがよく似合う。




「それなら良いのだが」




目を開ければ背後から覗き込む聖川君の目とかち合い、
夜空と同じ、綺麗な藍色の瞳が柔らかく笑う。

聖川君の水晶体が反射して星の様だ。

吸い込まれるかの様に深い藍。




『綺麗、』

「あぁ、美しいな」



思わず出た言葉は頭上に広がる満天の星空だと思われてしまった様だ。

聖川君が天を仰ぐ。


儚い人。


藍の空に消えてしまいそうな彼の腕を引き寄せて、
自分の指を絡め、骨ばったその指に口付けた。




「●●、」

『聖川君が好きだよ』




きゅっとまた引き寄せられて、
肩に感じる温もりと、一層強く香る聖川君の甘い香り。




「俺も好きだ」




甘い甘いお砂糖の様な声が撫でるように耳へ降り注ぐ。

甘さで満たされたアタシの身体。


啄む様に落とされる唇に愛おしいと言う感情が溢れた。





「夜が明けるな」






ゆっくりと明けていく東の空。
藍から青へと向かう暁の時。

侵食されていく雲の色。


また一日が始まる。




『今日も一日、宜しくね』




始まりの時間。
貴方と共に迎えられた事を幸せに想う。







(甘い香りに包まれた静かな夜は宝物。)

end


20111026


腕痛くて携帯弄るの億劫になったら、
よくわからん終わりになってしまいました…。

依存系は簡単に書こうと想うのに、純粋な“好き”が書きにくい。

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