▼可愛い










朝起きて洗顔と化粧水、乳液を終えた後に下地とファンデーション。

ビューラーで上げた睫毛にマスカラとピンク色のアイシャドウにチーク。
薄くアイラインを引いて、グロスを塗った。

大手化粧品メーカー勤務の姉のお陰でコスメには困らない。



髪は惜しみ無く使っているトリートメントのお陰で艶々で、
時間を掛けてブローし、軽くコテで巻く。


アイロン掛けを怠らず、皺1つ無い真っ白なブラウスに胸元のリボンを飾り、
チェックのスカートとジャケットを羽織る。

黒のソックスにストラップシューズを履けば完璧な自分の出来上がり。









『なのに何で翔ちゃんの方が可愛いわけ?』

「うっせぇ!!俺だって好きでこんなモン着てんじゃねぇよ!」



ウィッグを着けた頭におっきいリボンを付けて、ヒラヒラのワンピースを来ている彼は何処をどう見ても“美少女”。

肩を震わせながら怒っているせいで吐き出す言葉は汚いものの、
天然の可愛さと言うか愛らしさが滲み出ている。

男の子なのに、だ。




「翔ちゃん可愛いです!」
とか言って写メ撮ってる四ノ宮や、

「おチビちゃん…!!!」
なんて指差してビックリしている神宮寺、と音也、

「あはは!最っ高!!!」
なんて大爆笑している友千香が回りで騒いでいる。



多分それも気に入らない事の1つなのだろう。
眉間の皺がだんだん深く刻まれていく。




“あ、そろそろヤバイ”


そう思って自分の飲んでいたカフェオレが入ったマグを持って席を離れた。



その瞬間、
ガッシャーンと大きな音を立てて吹っ飛んだテーブルに
翔ちゃんの分を入れて5個のマグが中を舞う。



「俺は男だー!!!!」



今回はかなり頭に来た様で、頭部を飾るリボンを荒々しく鷲掴み。
ソレを四ノ宮に投げ付けて、四人を睨み付けた。

四人は呆然中なのでそのまま残し、
どすどすと学食を後にする翔ちゃんの後を追う。


相当怒りが顔に表れているのか、学食へ入ってきた生徒がひくつきながら彼を避けた。





『翔ちゃん』

「うっせぇ」



芝生が生い茂る一角にどかっと胡座をかいて座り込む美少女。
膝の上でとんとんと動く人差し指はイライラの現れだろう。

少し伏せてしまったせいで表情は伺えないが帰ってきた言葉は不機嫌そのもの。




「…俺だって、可愛くなんて、なりたくねぇしっ。」




小さな聲が聞こえた。

ずるずると外されるウィッグで更に見えなくなる翔ちゃんの顔。

肩は相変わらず震えているものの、先程と違って聲が弱い。
少し掠れた聲。




『…翔、ちゃん?』




隣に腰を下ろし、顔を上げさせれば真っ赤な眼。
眉間に皺を寄せ、彼のくりくりの眼が細められて、今にも泣いてしまいそうな、そんな眼。



男気全開とか元気一杯な彼が時たま見せる、
弱い部分。


肩から腕を回し、小さな身体を抱き締めれば、
オズオズと腰に回る細くて、でもしっかりと強い力が籠る腕がジャケットを掴む。


肩口に感じる重みを撫でる様にあやす様に金色の髪を梳く。





『翔ちゃんは…カッコイイよ、ホントに。』

「お前だって、可愛いっつったじゃねぇか、ばかっ…」




ポツリポツリと吐き出す彼の聲が
堪らなく愛おしいと思うのは
きっと。



『うん、翔ちゃん大好き』



少しでも可愛く見せたいのは君のせい。

可愛い可愛い君に近付きたくて。

隣を歩ける位になりたいの。





「…●●のが可愛いし。」





それでも勝てやしないのだけど。





(好きな人の前ではカッコ良くありたいものです)


end

20111016



翔ちゃんが可愛いと言いたいだけ。

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