▼お願い












「へっくしっ、」




鼻がむずむずしだした瞬間。

先日前から秋風が吹き出して、肌寒さを感じていたからか。





『翔、風邪?』




隣を歩く●●と一緒にレコーディング室に移動する途中。


そっと額に伸びてきた外気に冷やされた掌をそのままに、
ずずっと啜りながら指の背で鼻を擦った。




「や、わかんね。今日パーカー忘れたせいかも。」

『コレ貸してあげるよ』




バサッと肩に乗っかったソレは今まで●●が着ていたもの。




「●●が寒ぃだろ?」

『今日ストール持ってるから大丈夫だよ。って言うか…』




グレー地に黒のトリミングが施されたロングカーディガンに腕を通しながら●●を見れば
携帯のカメラを向けてパシャパシャと写真を撮っている。




「お前何撮って…!?」




あはは、なんて言いながら画像を見せてきた。

彼女が着ていてもオーバーサイズだったソレは勿論俺にも大きくて。

袖口からは指先しか出ずに、すっぽりとおしりまで隠してしまっている。




『翔ちゃん“彼カーデ”状態可愛いー』

「はぁ!?」



ただでさえコンプレックスな身長に、
毎日嫌と言うほど耳にする“可愛い”という単語。

思わず大きな声が出た。




そんな俺も彼女にすれば“可愛い”反応らしく、
鈴が鳴ったような可愛らしい声で笑っている。





『冗談だって、似合ってるよ』

「うっせぇ」




俺からすれば●●の方が可愛くて仕方ないのに。



いつも上手な●●に不貞腐れながらも何とか袖を捲って出した手で、
ヒヤリとする彼女の手に自分のソレを絡めた。


きゅっと握り返す手が好きだ。





『ねぇ、翔。今度さ、』





そっと耳元に溢された言葉に、
唇が緩むのはきっと。


大好きな●●の可愛いお願いだから。







“今度パーカー貸してね”





(可愛い君の可愛いお願い)

end

20111015



翔ちゃんが可愛くて辛い。

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