▼同じ目線で











「痛ってぇ!!」




擦り切れた腕から流れるは真っ赤な鮮血。
ソレを綺麗に拭き取りながら、アルコールを含んだ脱脂綿が患部に触れる。

脳内がツーンとするかのように身体中を巡る傷みに、生理的な涙が目を潤わした。




『ハイハイ。翔ちゃん、動かないの。』

「音也が居っからさぁ!」




傷口にふうふうと風を送れば、
腕を捕まれて、傷薬を塗った四角いコットンガーゼを当て、
その上から数本ベタベタとテープを貼り付けられる。

剥き出しだった傷口が覆われて痛みが引いた気がした。




『翔ちゃんが音也君に突っ込んだんでしょ』

「だってボールが!」

『自業自得ね』




確かにボールを追い掛けて突っ込んだのは認めよう。


しかし音也もトキヤ達に声を掛けていてよそ見をしていたのだ。

不意にぶつかった肩にバランスを崩して咄嗟に取った受け身。
そのせいで下敷きになった俺の左腕は●●に包帯を巻かれる様な傷を負った。



怪我の割に結構流れた血にも臆することなく手当てをする彼女との距離が近くて、
どこに目線を向ければ良いかわからなくて。

はらりと肩から落ちた髪が白い首筋を晒すから、思わず息を飲んだ。



「っ…痛いって、●●!もうちょっと優しくしろよ!」

『何言ってんの。出来たよ、翔ちゃん!』



苦し紛れに吐き出した悪態に、
軽く、ホンの軽くだけど巻いた包帯の上にポンっと●●の手が触れて、
ビリビリと電気が腕に走る。




「痛っ…〜っ!!!お前なぁ!」

『ハイハイ』




消毒薬を救急箱へ戻しながら、
軽くあしらう●●は何処か余裕ぶっていて。

こちとら先程から掠めるように触れる指に、
心拍数は上昇しっぱなしだと言うのに。






「…なよ、」




箱を棚に戻す彼女の背中に不満が漏れた。




『え?』

「…“翔ちゃん”なんて、那月みたいに呼ぶな、ょ、」




“ちゃん”付けなんて。

自分は…恋愛の対象外だと思い知らされているような、そんな気がして、
名前を呼ばれているのにとても胸が苦しくなる。

ただでさえ回りの奴よりか低い身長。
ホンの数ミリ●●よりも高かった事が唯一の救いか。




『何、気にしてたの?』

「バカ!あったりまえだろ!」




気にしない筈がない。

俺だけ目線が同じ、なんて。





『ほんと、可愛いね』




微かに頬染めて柔らかく笑う●●。

手当てをする為に低めの椅子に座った彼女が上目使いで視線を寄越した。






長い睫毛。

自分が写り混んだ、アメジストの様な瞳。





「…ソレは俺の台詞だっつの、」




いつだって彼女が上手なのだ。

一際大きく鳴った胸の音に
ハットを深く被り直してふいっと顔を背けるしか術は無くて。




『教室戻ろっか、“翔”?』




指の間に滑り込んできた●●の指。

彼女の手が柔らかに触れた。




「…ぉ、ぉぅ、●●」




無意識に上がる口角を空いている手で隠せば、
嬉しそうにふわりと笑う彼女。


コツンと二人分の靴音が廊下に響いた。



(同じ目線で行こう)




end

20111015



マジラブの翔ちゃんの声ばっかり拾うようになってきた。
割烹着ダムより決壊してきた。

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