▼ナイショの話




*那月が早乙女学園の先生になってます。






『四ノ宮センセ、』




午前中の授業が終わり、
学食や広大な敷地の何処かで昼食を取ろうと賑わっている校舎の中、
廊下を歩く癖っ毛に声をかけた。




「…▲▲さん」










幼少の頃、兄がエントリーしたので訪れた大きなホール。

後に知ったのだけれどかなり大きなコンクールだったようだ。
そこで惹き付けるようにヴィオラを弾いていたのがこの四ノ宮センセ。



他のコンクールでもよく顔を合わせるせいか
兄にくっついて控え室を彷徨いていたアタシもその頃から四ノ宮センセを知っていた。





「先生って呼ばれるとくすぐったいです。」





眼鏡の奥、柔らかく頬笑む目。



世間を大騒ぎさせているアイドルグループの
一員の彼が此処、早乙女学園で教鞭を取ったのはつい先日。

忙しい彼が担任を持つ時間はないが、
特別講師として非常勤で教えにきた。






『四ノ宮センセ、ヒンデミットの見解を伺いたいんですけど、お時間有りますか?』

「あー…、」

『この白い毛の猫のところに行かれるのでしたら、放課後の方が良いでしょうか?』




少し游いだ四ノ宮センセの目の前に、袖口についていた細く柔かなソレをひょいと取って見せた。


背の高いセンセの耳元で囁くことは身長160センチしかないアタシには出来なかったけど、
極力小さな声で、誰にも聞かれないように。






「…見てたんですね」




困ったように薄く笑って、片手で後ろ頭を掻く。





『偶然通りかかったらミルクをあげてる姿が見えて。』

「そうですか」





ヘラっと笑う顔は、アタシよりも年上の筈のセンセを幼く見せる。

金色の髪がふわりと揺れた。






『四ノ宮センセ、学園内は動物飼育は禁止ですよ?』





そう言うアタシの唇に人差し指をトンと掠めて、薄い唇が弧を描く。


昼食の時間になって結構時が過ぎた。
廊下はいつの間にか人気がなく、シンと静まりかえっていて。


四ノ宮センセが、シ、と小さく笑った。






『!』

「ナイショにしててください、●●ちゃん」





四ノ宮センセがアタシを“●●ちゃん”と呼ぶ。





そう遠くない昔、まだ彼が早乙女学園に通い、アイドルグループとしてデビューする前は
コンクール仲間として仲良くなった兄と年に数回食事をしていた。

そして、くっついていたアタシを●●ちゃんと呼んで、甘やかしてくれていたのだ。







『そう…呼ぶのは卑怯だよ、なっちゃん』

「“先生”って呼ぶからですよ」




ポンポンと頭を軽く撫でながら、
意地悪そうに笑う“なっちゃん”。


この顔には勝てない。



なっちゃんの笑う顔が昔から大好きだった。













久しぶりに再会したのだ、もっとゆっくり話がしたい。

もっと一緒にいたい。

そう思っちゃダメでしょうか。





『アタシも、猫のところ行って良い?』










ふわりとまたなっちゃんの髪が揺れた。







「えぇ、二人きりでイイコトでもしましょうか」

『っ…バカ!しないよ!』










クスクス笑いながら歩き出した背中を追う。



少し先で待っている手を取った。






「それは残念です」






誰にも見つからないように、
誰にも気付かれないところで、

二人きりでナイショの話をしよう。






昔みたいに呼び合って。




(昔から募った想い)


end

20111008



短い話を書こうと思ったんやが。

なっちゃんデビュー数年後?

スマホで書くと見にくいせいか、余計支離滅裂になってしまう…。




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