▼金木犀 甘い甘い。 鼻孔を擽る甘ったるい香り。 少し肌寒くなり秋めいてきた空を見上げていると、 何処からか風に運ばれてきたソレ。 この甘い香りが好きだ。 緑色の草の中、オレンジ色の可愛らしい華が放つ香り。 小さな華の集合体が、主張する強い香り。 一気に秋を感じさせてくれる。 誘われるように動く足をそのままに、 香りの元へ向かった。 「●●ちゃんもですか?」 『なっちゃん!』 金木犀の木にか困れたスペースで見付けた背中は、 仲の良い友人の四ノ宮那月。 「良い香りですよね」 『うん、大好き。』 背の高い癖っ毛の彼もアタシと同じ様に香りに誘われた様だ。 「僕もです。僕も、大好きです。」 ふわりと優しく笑いながら、大好き、何て言うから。 どきりと鳴った心臓を抑えるように、 那月から背を向けて、金木犀の木に近付く。 『う、うん。…良い香りだよね!』 「●●ちゃんも、良い香りですよね」 距離を取った筈なのに。 思いの外、近い背後から聞こえる声。 『え!!?』 声が上擦る。 首筋に感じる那月の指。 アップにした髪の後れ毛をくるくると弄ぶように触れる。 「香水か何か付けているんですか」 『つ、付けてないよ…っ!』 頭ひとつ分高い身長の彼が少し屈ませて 耳元に顔を寄せる。 「お日様の様な優しい香り。」 『っ…なっちゃん!』 身体を反転させて、那月の身体を自分から離すように腕を押しつけた。 金木犀と同じ、甘ったるい、声。 「ほんっとに可愛いなぁ!●●ちゃん!」 『わ、わ、』 今までに見た事の無い視界。 ひょいと軽々と持ち上げられた身体。 無意識に安定を求めた腕が、那月の頭部に触れる。 柔らかな髪が陽に透けてとても綺麗、 そう幾度も思ったソレに、触れた。 お日様みたいなのはなっちゃんの方だよ、そう言おうと思った。 「●●ちゃん、だぁい好き。」 那月のそんな声が聞こえたせいで、 喉まで出掛けた言葉が出せなかった。 思いっきり息と一緒に飲み込んだせいか。 真っ赤に色付いてしまった頬が那月に見えないよう、 抱き上げている彼の髪に隠れた。 もう少しだけ、このまま。 煩く鳴る鼓動が少し落ち着いたら。 アタシもだよ、そう伝えよう。 きっとお日様の様な笑顔を向けてくれるから。 (甘ったるい声に陶酔) end 20111002 今日の誕生花が金木犀みたいですね。 金木犀が綺麗に咲く季節になったので。 那月のイメージが“好きというモノに容易に触れれる人”でした。 ←一覧へ |