▼アタシを導く手









深く深く意識の下。



暗く黒い視界の中。



誰も居ない空間。



音の無い世界に、アタシだけ。






ねぇ。

誰か。

ねぇ。




吐き出した言の葉は刹那に消えて。




そうか。

アタシの世界は、アタシには何も無いんだった。



なんて。


絶望的。








気が付けば、
足元から崩れていく。

黒から黒へ。















「●●、」




一瞬で引き戻された意識。






『…え?』






覗き込んでいる見知った顔と、見知った真っ白の天井。

横たえていた体を起こせば、此処が真斗の部屋だった事を思い出した。





ベッドの隣、バルコニーへ続く窓に目をやれば
朝陽が射し込んでいる。




「何故、泣いている…?」



その光を背に受けたせいで寝起きの視覚には上手く捕らえられない部屋の主の声が降ってきた。


そっと頬に伸ばされた指で掬い上げられた水滴。

此方を見つめているであろう真斗の声は心配の色を宿していて。











何で…?


何でだっけ。


あぁ、夢を見ていたんだ。



それはそれは恐ろしい夢を。





『一人に…しないで。』




光に慣れた眼が真斗のソレを捕らえた。





「しない。絶対に。」




頬に触れていた手がグッと後頭部に回り、
前方に身体が傾いたと思えば額に触れる、
真斗の肩。

トントンと背中をリズム良く跳ねる手に絶大な安心感。





酷く落ち着く。


アタシには真斗が、いる。




真っ黒だった夢に一筋の光。


一瞬だけ、そんなイメージが瞼の裏側に浮かんで消えた。




夢は夢でしかない。

現実ではない。

身体中で感じている彼の体温が、真実。



不安になる事なんて無いのだ。





『大好きよ、真斗』



心の奥、芯の部分が暖かくなる。





「●●、好きだ。」





耳元で真斗の低い声が、響いた。





(アタシの安定剤)





end

20111001




怖い夢を見た気がしたので。
起きた瞬間忘れてしまったけど。

←一覧へ