月曜日は、いつだって憂鬱と一緒にやって来る。月曜日じゃなくても、とりあえず休日が終わって一発目の一週間のスタートはつらい。俺、明石ヤマトとしては、毎日が日曜日、もしくは夏休みでもいっこうに構わないのだが、どうやらそうもいかないらしい。
 早朝からのなかなか張り切った部活動朝練習を終えて、俺は教室に足を踏み入れた。欠伸を噛み殺しながら席につく。中央列、前から五番目のこの席は、俺からすれば結構な特等席だった。窓際のような開放感はないが、クラス全体を見渡せる席。人間観察にはもってこいの位置だ。
 鞄から中身をいくらか出して、少ししぼんだそれを枕にしつつ、早速クラスにぐるりと視線をやる。
 イチャイチャしてるカップル、グループで固まってる女子、必死で課題をしている友人。その中でふと目をひいたのは、俺の親友(だと一方的に思っている)、一輝だ。いつもならしゃきっと背筋を伸ばして、寄って来るクラスメイトと軽く雑談しているはずの彼が、話し掛けるなオーラを全開にしながら机に突っ伏している。
 珍しい、というか、初めて見た。
 一輝は、基本的に自分から人間関係を作ろうとしない。にこにこ愛想を振り撒くこともなければ、他人の目を気にすることもない。だけど、人が困っていると放っておけない気質のようで、なんの見返りも欲することなく人に手を差し延べたりする。見方によれば、それはとても傲慢でお節介な行動なのかもしれないが、そのお節介に救われる人も確かにいて、そういう人間が自然と一輝の周りに集まる。一輝はその人達を追い払うこともなく、また懲りもせずお節介をやくのだ。
 そうやっていつでも人を受け入れている一輝が、あんなにもわかりやすく人を拒絶している。なにかあったのだろうか。好奇心が疼いた。
「かーずき、どうした?」
 ぽんと肩を叩きながら、出来るだけ明るく話し掛けた。
 一輝は伏せていた顔を迷惑そうにあげて、俺をまっすぐ見た。眉間にしわが寄ってる。そんな恐い顔したらせっかくのそこそこイケメンが台なしだぜ。
「……なんでもねえ」
「ふーん」
 なんでもないわけがないと思うが、しつこく問いただす雰囲気でもない。どうしたものか。気にならないと言ったら嘘になる。
 そうこうしているとチャイムが鳴った。名残惜しくも自席に戻る。うっとうしい授業が今週も始まる。俺はもうすでに帰りたかった。


 その日はどこかいつもと違う一日だった。一輝は相変わらずだし、授業は眠いし(まぁ、これはいつも通りだけど)、体育祭の準備はあるし、部活のミーティングもあるし。
 俺の妹までもがおかしかった。
 学校から帰ってきて、リビングでのんびりニュースを見ている時だ。放置されていたすみれの携帯が、今流行りのイケメンアイドルのシングルをちゃんちゃか鳴らし始めた。すみれは顔をきらきらさせて、目にも留まらぬ速さでそれを引っつかみ、そしてにこにこしていた顔を今度は何故か険しくして自分の部屋に戻って行った。
 それから少しして、外行きの服に着替えて戻って来ると、もうすっかり日も落ちたというのに慌ただしくどこかへ出かけて行ったのだ。
 帰ってきたらきたで思い詰めたような顔をしているし、なにがあったのか聞いても答えない。終いにはお兄ちゃんうざいときた。
 もしかしたら、妹にも春が来たのかもしれない。恋か。恋なのか。少しばかり胸が痛むが、妹が選んだ相手なら仕方ない。ちょっと面貸せ殴らせろ。


 そんなこんなで月日は流れて、一輝も妹もおかしいまま体育祭も行われ、俺は現役野球部としてリレーで大活躍したりした。他校の友人に話すと大抵嘘だと笑われるが、これは断じて嘘でも誇張でもない。
 そして、俺の活躍などなかったかのように、学校は通常運転に戻る。気が付けばもう月は明けて十月。もう残暑もほとんどない、過ごしやすい気候になった。




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