長かった夏休みも、もう終わろうとしていた。いろいろなことがあったこの夏も、終わる。
 一輝に出会って、すみれちゃんに出会って、話して、笑って、泣いて、喜んで、後悔して、おれは多くを経験した。
 おれも少しは成長したんじゃないだろうか。苦手な人付き合いとも向き合って、友達もできて、こんな甘酸っぱい想いまで抱えて。思い出しきれない思い出を思うと、この夏が過去のことになってしまうのが、少し寂しいような。
 でも、この独特の寂しさは嫌いじゃない。

 計画的に学習を進めていたらしい一輝はもう課題を終えてしまったようで、さっきから机に突っ伏している。冷たさがちょうどいいのか、額が当たる位置を少しずつ調整しながらじっとしていた。かと思えば、ゆるりと顔をあげておもむろに声を漏らす。
「あー、今年も夏が終わっちまうなー」
「そう、だね」
 同じようなことを考えていた。そんなことで嬉しくなる自分の甘ったるく女々しい気持ちにうんざりしながら、おれも言葉を模索する。
「……夏が終わっても、ここに来てくれる?」
「なにいってんだよ、決まってるだろ。……今ぐらいの頻度では流石に無理だけど、絶対来るよ」
「…………ありがと」
 どきどきする。一緒にいるだけでこんなに幸せになるなんて知らなかった。もっと共有したい。もっと知りたい、知ってほしい。
 でも、このきもちを知ってるのは、おれだけでいい。恋心を軽蔑されるのも、女々しさに幻滅されるのも耐えられない。
 一方通行で構わないから、せめて、せめてこのまま。




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