▼掃きだめる
「やっぱり、すきだなぁ」 扇風機に長い黒髪をなびかせながら、芽衣は言った。彼女の手の中には、透き通った硝子のグラス。鮮やかな赤いそれは、親父の旧友である職人が作ったものだ。両手でくるくるとグラスを弄びながら、彼女は俺に笑顔を見せた。 「落とすなよ。売り物なんだからな」 「勿論。……赤井くんの店、好きだし、落とせるわけない」 「そりゃどーも」 芽衣は俺から視線をそらして、楽しそうに店の中を見渡した。 店内には、俺と芽衣の二人だけ。こいつは、学校帰りに毎週、店が一番暇な時間に来る。白地に青のセーラー服は、俺の母校の女子生徒用の制服。彼女は俺にとって、家が近所の幼なじみであり、年の離れた後輩でもある。 「私、赤井くんの店の赤い硝子が好きだよ」 「……なんかの洒落か?」 「違うよ」 芽衣は硝子を棚に戻した。そして、レジに肘着いた俺の目の前まで歩みよって、言葉を紡ぐ。 「赤井くんの硝子が好き。赤いのはもっと好き」 でもね、と少し間を置いて、とろけそうな笑みで続けた。 「赤井くんが、なにより一番すきだよ」 「……そんなの」 そんなの、とっくの昔から知ってるさ。
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