ふと、日記を書こうなんて思った。特に理由はない。最初にも言ったが、ただふと思い付いただけである。
私は早速日記帳なるものを買いに行くことにした。家から一番近いところにある、若者向けの雑貨屋(年配者向けの雑貨屋があるのは知らないが)に入り、適当に数冊を手に取った。その中でも自分の好みにあった一冊を選んでレジに並んだ。

最近ではネット普及の波に押されて、こういったものを利用している人間は減っているのが現状だ。日記を書こうと思うにあたって、ネットに存在するブログというサービスを利用しようかとも思ったが、乱れのない調整されたフォント文字では味気が無いからと自己判断で却下した。

レジで会計を済ませ、店を出た直後だった。


「あ」
「こんにちはー」


胡散臭い笑顔を常に安売りする折原臨也と、邂逅するという不幸かつ珍事な出来事に出くわした。面倒臭いなと思うと同時に、先程買った日記帳を何故か無意識にぎゅっと強く握り締めた。


「なんで臨也さんがここに…、池袋に顔出すのは不味いとかなんとか、この間言ってなかったですか?」
「確かに言ったけどー…仕方ないんだ。今日は仕事でね」
「人の秘密を売り捌く悪の所業とも言える、あの仕事ですか」
「いつも思うけど随分な言種だよね」


悪の所業もとい、情報屋である臨也は、はぁと溜息にも似た声を零し、苦笑を浮かべる。


「だって、私には臨也さんに気を使う理由がありませんから」


真顔で淡々と切り返した私に、臨也は爽やかに笑ったままだった。こんな言葉攻めでこの青年がどうにかなるとは思わないが、少しぐらいはダメージを受けて欲しかった。

だからといって目立って臨也を嫌っている訳ではないが、でも好きにはなれなかった。この折原臨也という人間は見事なまでの口の上手さと、溢れる程の膨大な量の情報で、人の心を惑わし、誘導し、そして破壊する。
この世に悪魔などという非常識な存在はいないと信じたいが、臨也はそれに似た性質を持っている。

一言でこの男を表すのなら、悪魔という言葉以外に当て嵌まるものはない。
私はそう思っている。


「詩織ちゃんは相変わらずあれだ。えーっと、…なんだっけ」


臨也は両腕を組み、首を少しだけ傾げてわざとらしく考え込むポーズをとる。暫くして考えが浮かんだのか、不敵に笑い


「そうそうっ、ツンデレ!だよね」

無邪気な調子で言ってのけた。
一瞬、脳がその意味を理解したくないと拒絶した。気がする。いや、実際理解しなくていいなら、したくなかった。


「好きな相手には一見その気がないような素振りばかりみせておいて、実際は好きだった!みたいなさ」
「……頭沸いてますね、お願いですから死んで下さい」


軽蔑の眼差しを惜しみ無く臨也に浴びせたが、当の本人には全く効果がない。


「さて、詩織ちゃんはいつデレてくれるのかな?」
「一生ありません」


これ以上相手をするのが馬鹿馬鹿しくなって、逃げるように背を向けた。そうして何歩か進んだところで、私はあることに気付く。


「じゃあこれ、書いたら送るから。楽しみにしててねー」


まさかと息を呑み振り返る。臨也の手に握られていたのは、紛れも無く私が買ったあの日記帳だった。
確かにさっきまで私が持っていた筈なのに、どんな早業を使ったのか、知らぬ間にそれが悪魔の手元にある。


「あっ、ちょっと…!」


取り戻そうと声を掛けようと口を開いたところで、臨也は逃げるように走り出しそのまま人混みの中に消えていった。


まさか日記帳が奪われるだなんて微塵にも予想出来なかった私は、思わず項垂れた。もう一冊日記帳を買うべきかどうか迷ったが、それもなんだか癪だった。
それにしても、「書いたら送る」とか訳の解らない事を言っていたが、本気で送ってくる気なんだろうか……


「……―――それって、交換日記ってことになるの?」








私の×××





考えただけで、寒気がした。

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