臨也に呼び出され指定された場所(とある喫茶店)に来たまではいいものの、なんだか物凄く帰りたくなってしまった。注文を伺いますと来たメイドに珈琲を頼んだというにも関わらず、だ。そういった心の葛藤を暫くした後、運ばれてきた珈琲に砂糖とミルクを好きなだけ入れてみた。それを口に含むと、やたら甘い味が咥内を犯して、一瞬だけ吐き気がした。
「ちゃーんと来てくれたんだ」
「……臨也」
ふと聞き覚えのある声がして、視線を上げると案の定臨也の姿があった。
逃げ損ねてしまった。
臨也を見て一番最初に頭を過ぎったのはそんな考えだった。
「まぁ来てくれなくても、俺は会いに行くつもりだったけど」
「そういうの至極迷惑だから止めてくれない?」
「それは出来ない相談だ」
「……っていうか話したいことって何?」
いつもの調子で笑う臨也が、私と向かい合うようにして席に着いた。世間話をしにきた訳ではないのだ。それに臨也と私の世間は、世間違いに他ならない。
だから先ず世間話は無いだろう、用事があるならあるでさっさと終わらせて帰りたい。というのが今の私の切実な願いだ。
だからと言って私は臨也を嫌っている訳では決してない。一緒に居るとどうしてか面倒事が転がり込んでくるものだから、私は臨也と一緒に居るのが億劫になっている。理由はそれだけだ。
「話?あー…そうだね、話があるんだった」
「茶化さないで早く言って」
「そう怖い顔しないでよ。デートしたいなぁって思ったんだよ、いけない?」
「……」
臨也が言い終わった後、二人の間に妙な沈黙が生まれた。そんなタイミングを見計らったのかどうなのか、メイドが臨也に注文を取りに来た。臨也は適当に何か(無駄な事は聞かない主義)を頼むと、にっこりと笑って
「で、今から何処行こうか?」
冗談なのか本気なのか、どちらでもいいが私は早く帰りたくて仕方ない。
もう無視しようと決め、立ち上がろうとした矢先、テーブルに置いた私の腕が臨也の腕によって捕まった。
「デートとかする気ないし、巫山戯たこと言わないで。私は帰ります」
「ダメだよ。帰してあげない。それに巫山戯てなんかいないさ」
こう言い出した臨也は一歩も引かない。そもそも臨也が一歩引いたところなんて私は見た事がないから、引くことなんて地球が破滅するぐらい有り得ないことだろう。
なんて奴に目をつけられたんだ。
きっと私には運が無いのだ。
「いつだって俺が大真面目だってこと、……───詩織は知ってるよね?」
心底巫山戯た奴だと、私は心の中で呟いた。
何事もブラックで