「べ、べべべ、別に不満とかそういうんじゃないし……!これは当たり前な考えなの!だから……っ」
「何一人でくっちゃべってんだ?」
「うわぁ!?静雄!なんでここに!?っていうか、いつからそこに!!?」


急に背後から話しかけられ、お笑い芸人顔負けなリアクションを盛大に盛り込んだ私の後退を見て静雄は怪訝そうに眉を顰めた。


「ここは俺の家だし、別にいつ帰ってきたって問題ねぇだろ」
「ま、まぁそうなんだけど……」


少しだけ機嫌が悪いのか、投げかけられる言葉に棘がある。どうせ新宿の情報屋が絡んでいるに違いない。その根拠たる理由は、静雄のバーテン服がところどころ刃物か何かで切られたような細かい裂け目があるからだ。
毎度毎度、情報屋の臭いを嗅ぎ付けては命がけの喧嘩を繰り返している。響きは物騒だが、静雄の彼女の私としては若干……嫉妬のようなものを覚えなくもない。悪い意味は抜きにして、それだけ静雄の中で存在が大きいのだ。あの漆黒を纏った情報屋は。


「何が不満だって?」
「へ?」
「今言ってただろ、不満とか当たり前がどうとか」
「わわわわわ、忘れて!なんでもないの!独り言なの!」


断片的にだが、聞かれたくなかったワードをぽろぽろと口に出していく静雄。私は挙動不審にうろたえ、首を振りながら全身で強烈なアピールをする。逆にここまでやると怪しいなどという考えは今の私には思い浮かばない。

しかし、静雄も馬鹿ではない。そんな私の様子がおかしい、というのはすぐに気づいた。多分気づかない人なんていないのかもしれないが。


「独り言って……、お前大丈夫か?今日何か変だぞ?」
「変!?安心して!私は元からこんな感じだから、全然問題ない!もーまんたい!!」


まるで異世界人でも見るような静雄の目つきに、私は少しばかり傷ついた。


「絶対おかしいだろ。嘘つくの下手なんだからいい加減本当のこと言ったらどうだ?」
「本当のことなんて言ったら恥ずかしくて私死ねる!」
「恥ずかしくて死ねる?」
「あああっ、ついつい口から本音がぁ!今の無し!取り消し!カットカット!!」


手を鋏のように例え指を前後に動かす。静雄は眉を深く寄せて、大きなため息のような声を零す。


「テレビじゃねぇんだし、カットできるわけねぇだろ。ばか」
「静雄のくせに馬鹿って言わないでよ!馬鹿!」
「……ああ゛?」
「すみませんでした!!」


思わず口走ってしまった台詞に、明らかに静雄がキレかけたのを見逃さない。反射的に謝罪の言葉が飛び出す、もうこれは身体に染み付いてしまっている。
謝罪の言葉に一旦怒りが引いた静雄は、無言でこちらを睨み続ける。仮にも私は恋人だというのに、なんでこうも蛇に睨まれた蛙みたいな状態が再々訪れるのか。まぁ私も悪いんだろうけど、静雄も少しは我慢するべきだ。とは口が裂けても言えない。


「で?」


腕を組み、頭一つ分は違う静雄が私を見下ろす。その迫力と言ったらない。


「だ、だからなんでもない……」
「なんでもなくねぇだろ。俺に不満があるなら言え、はっきりしねぇのはどうにも性にあわねぇ。俺がキレる前に答えろ」
「そんな横暴な!!」
「ごー、よーん」
「しかもカウント式!?」


制限時間を向かえれば、静雄がキレるという方式らしい。
そんな物騒なカウントダウンを目の前に私が焦らない筈がない。


「さーん、にー」
「言う!言うから止めて!」
「……」


静雄の右腕に縋り付くように抱きつく、するとカウントダウンはすんなり止まってくれたが次は無言の重圧が私に圧し掛かる。もう往生するしかない。


「わ、……笑わないでよ?」
「分かったよ」


素直に分かったという静雄をちらちらと見上げながら、重たい唇をゆっくりと開く。


「最近……その、なんていうか……あの」


もじもじもじ、中々言葉が口から出ない。


「静雄がね、仕事とかで色々忙しいのは分かってるのね。だから……我儘は言わないようにしようって思って、思って……たんだけど」


しどろもどろな台詞に静雄は眉一つ動かさない。


「やっぱり、寂しい……って思、ってごめんなさい!困らせようとかそんな思いは一切無いの!でもね、やっぱりね寂しいもんは寂しいの!ごめんなさいっ、我慢が足りない私だけど嫌いにならないでぇ!」


謝罪から入ったはずなのに、堰が切れたように勢いがついた私は止まらない。最後の方になると涙が滲んでいた。惨めで我儘でどうしょうもない自分に逆に腹が立ってもきた。いっそのことキレた静雄に一度ぶん殴られればいいんだ。とも思い始めた矢先。


「悪かったな、気付いてやれなくて……よ」


不器用ながらに優しい言葉。それを聞いて更に泣けてくる。


「なるべく気をつける、から泣くなって」


困ったような顔をして、顔を覗き込んでくる。それがどうしようもなく、可愛くて愛しい。


「しおらしい静雄も可愛いよーっ」


間近にきた静雄の顔を思わずぎゅうっと抱き締める。本当親馬鹿ならぬ、静雄馬鹿なのだと私は思う。急に抱き締められたことに静雄は驚きながらも、身体を屈めたまま暫くその姿勢でいてくれた。

そんな静雄が私は大好きだ!




大好きが止まらない



(で、いつになったら離してくれんだ?)
(もう少し……)
(腰辛ぇからもういいだろ)
(いやいや、もうちょっとー!)
(……面倒臭ぇ)

 



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